スザ誕2018

遅ればせながら、枢木スザクさんお誕生日おめでとうございまーす!!!安直に数えたら28歳!?スザルルが20代後半とか!たぎる!
大人もいいけど子供時代もいいよね、ってことで誕生日関係ないひと夏のSSを書きました(*゚▽゚*)ツイッターにupしましたがこちらにも残しときます!


 客人は麦わら帽子に虫取り網、首には黄緑色の虫カゴをぶら下げて、夏の日本の少年代表のような格好でやってきた。
「今日もこんな薄暗いところにじっとして辛気臭いな。外に出ないからそんななまっ白いんだぞ」
 今の土蔵の住人は異国からやってきた兄妹だ。
「スザクさん、いらっしゃい」
「僕は毎日毎日虫と魚とスイカのことしか考えてない能天気とは違って忙しいんだ」
 すっきり晴れたおかげで早く乾いた洗濯物を畳みながら、ルルーシュは背を向けたままスザクによく回る口で答えた。
 振り返ると夏の日差しが目に痛い。ルルーシュがまぶしそうにしていると、スザクは蔵の戸を大きな音を立てて閉めた。やっと逆光に慣れて見えてきたスザクの顔は、ニヤリと笑ったいたずらっ子そのものだった。
「お前たちに夏を体験させてやる」
 ルルーシュは嫌な予感がしたが、二の句をつぐ前にスザクが動いた。
 次の瞬間、一層うるさいけたたましい音が土蔵中に鳴り響いた。いきなりスザクが虫カゴのスライド窓をずらし開けたのだ。
「あっ! バカ、バカスザク!」
「ひゃっ! なんの音ですか?」
「この、バカが、蝉を、虫カゴから放したんだ!」
 ルルーシュはジリジリと鳴く蝉に怯えながら、ナナリーを守るため彼女に覆いかぶさった。
「あ、バカって言う方がバカなんだからな!」
「うるさい! どうするんだコレ! 君はいつも意味の分からない行動をとってくれるなっ」
「お兄様、お兄様! 腕に何かくっつきました!」
「大丈夫だよ。今とってあげるから」
 ルルーシュはおっかなびっくり、ナナリーの半袖から出ている白く細い腕にとまった一匹を払った。しかし敵は意外に強く、ルルーシュの攻撃むなしくくっついたまま羽を震わせ鳴いている。
「なんだ。お前、蝉も掴めないのか。これだからブリタニアのおーじさまは」
「いいから、ナナリーが怖がってるだろ! 早く取ってくれ」
 ナナリーを引き合いに出されるとスザクも弱い。慣れた様子で蝉を掴むと空中に放った。
「ナナリー、怖がらせてごめんな」
「いえ、平気です。すごく大きな鳴き声ですけど、何匹くらいいるんですか?」
「二十くらいかな。今日はいっぱい取れたんだ」
 白い歯を見せてスザクは笑う。その間にルルーシュはすかさずスザクが壁に立てかけた網を手に取り、振り回していた。
「ははっ、そんなんじゃ一匹も捕まえられないぞ」
「笑うな! 君がしでかしたことだろ? 早く全部捕まえてくれないか。不衛生だ」
 ルルーシュはスザクに網を突き出して渡した。
「ちぇっ、そんなに怒るなよ。楽しいかと思ったのに」
「こっちはいい迷惑だよ。持ってくるならもっと役に立つものにしてほしいな」
 自由に飛び回る蝉を遠い目で見やりながらルルーシュは嘆息する。スザクは期待していた反応でなかったことに少し後悔した。
「お、俺……お前たちが喜ぶことがしたかったんだ」
 うなだれて見るからにしゅんとしたスザクに、ルルーシュは少し怒りすぎたかと思った。かける言葉を探している内に沈黙を破ったのは優しい声だった。
「スザクさん、ありがとうございます。こもりがちな私たちに夏を実感させてくれようとして下さったんですよね。私は森の中へ入っていけないので、蝉の声がこんなに賑やかだなんて知りませんでした」
「……ナナリー」
「でも、蝉は長い間を地中で幼虫として過ごしてやっと外に出てきたんですよね。だからこんな狭いところではなくて大きな空を飛んでほしいと私は思います」
 お兄様はどうですかとナナリーがルルーシュの手を握る。
「うん……そうだね。自由にしてあげよう。なぁスザク」
 ルルーシュもスザクの日焼けした手に触れた。
「……分かった。なんか、ごめんな。俺、ちょっと浮かれてた。俺の楽しいこと、ルルーシュとナナリーも楽しいと思って……」
 自分の非を認めて謝ることが出来るようになったスザクの素直さを、ルルーシュは好ましく思った。
 さて、とルルーシュは立ち上がる。
「じゃあ後は頼んだからな。僕たちは外に出ているから」
「えっ、手伝ってくれないのかよ!」
「冗談じゃない。それとこれとは話が別だ。一匹残らず逃がしてくれないと困るからな」
 土蔵の天井は高い。しかしハシゴで二階に上ればスザクの運動神経ならすぐに捕まえられるだろう。戸を開けると何匹かが青空へと飛び立っていった。
 えいっとかおりゃっとか叫ぶ声を聞きながら、ルルーシュとナナリーは炎天下で目を合わせて笑った。