サイトにupするほどのもんでもないかなというのをここに上げようかと思います。
大っ好きな漫画『憂/鬱な/朝』のパロディです! 商業BLでは日高さんが一番好きです!
若子爵スザク×年上家令ルルーシュです。
「私は一生涯あなたに使えます。ですから必ず、枢木家に伯爵以上の地位を――」
枢木スザクが父親から子爵位を継いだのは、わずか十歳の時であった。
先代子爵、つまりスザクの父親が早くして亡くなったためであるが、十歳の子爵という異例の事態に社交界はその話題で持ちきりだった。なんでも十歳子爵を宮内省に認めさせた有能な家令がいるらしい、と。
「これからスザク様の教育係を務めます、家令のルルーシュ・ランペルージです」
スザクがはじめて枢木家の本邸に足を踏み入れた時、彼を迎えたのは背が高くて洋装の似合う若い男だった。肌の色や顔のつくりから異国の血が入っているのが分かる。それは綺麗な男だった。しかしその双眸は冷たく、スザクは幼心にその怜悧さを覚えている。そして同時に、屋敷の豪華さに圧倒されて思わず躓いてしまった時、差し伸べられた手が自分より大きかったことも。
父からの遺言でルルーシュのことは聞いていた。父は彼に全てを託したと、彼に従っていれば何事もうまくいくと、そう言い残して死んだ。
スザクは心細かった。病がちな母と別邸で幼少から生活していたため、父も自分のものとなった子爵邸も馴染みがない。新たな環境に放り込まれ、子爵などという肩書を与えられ、不安で仕方がなかった。唯一頼れるのは家令のルルーシュのみ。
「スザク様、伯爵位以上と子・男爵位との違いをご存知ですか」
先代が使っていた立派な書斎で、身の丈に合わない椅子に座って懸命に羽ペンを走らせるスザクにルルーシュが問う。
「伯爵位以上の華族は貴族院に入ってしまえば終生高位に座せますが、子爵であるスザク様はまず選挙をして同爵位中で上位に入らなければなりません。もちろん任期もある。そう、面倒なんです。社交的になって常に周囲に目を配っていかないと」
「……じゃあルルーシュがヴァインベルグやCの婦人と付き合うのも”社交的”ってこと?」
「そうです」
大して気にした風もなくルルーシュは答える。
スザクはヴァインベルグ侯爵家のジノが幼い頃から苦手だ。嫌いと言っても差し支えない。
スザクがそれを見たのは、まだルルーシュと出会ってすぐの頃だった。
その日も大きな机に向かわされ、ルルーシュの講義を受けていた。たしか経済についてだったと記憶している。ルルーシュは持てる限りの知識をスザクに注ぎ込んだが、ことそれは経済に関して顕著だった。
――スザクが成人する頃には、身分ではなく資金力がものを言う時代が来る、爵位すら金で買えるようになるのだ――と、彼は憚らず口にした。
スザクが書物に目を落している間、ルルーシュは窓の外に目を向けていた。決して集中力がないわけではないのに、スザクは視線を吸い寄せられるようにその後ろ姿を見てしまう。
(ルルーシュはいつも背筋が伸びてる)
ふとその背中が振り向いて、スザクはきまり悪そうに再び目を落す。重たげな音とともに視界に現れたのは更に積み重ねられた本の山。
「こちらを明日までに読んでおいて下さい」
そう言い放つとルルーシュはドアへと向かう。
「あとでお食事を持たせますので」
振り返ることもなくそう告げると足早にどこかへと急ぐ。その様子を不思議に思ったスザクが窓に駆け寄り庭を見下ろすと、そこには見覚えのある馬車があった。
(ヴァインベルグ家の馬車だ……)
なんだか悪い予感がしてスザクは屋敷の中で二人がいそうな部屋を探した。
「小さな子爵様はどうだい? 頭の出来はそう悪くないって聞いてるけど」
「さあ、どうでしょうか」
「彼が成長したら枢木も安泰だな! そうすれば君がこの家に留まり続ける理由はなくなるわけだ。なぁ、どうか我がヴァインベルグへ来てくれよ! 特別の待遇で迎え入れよう、父上も賛同して下さった」
数多くある客間のうちの一つから二人の声が漏れ聞こえた。スザクはゆっくりとドアノブを回して、わずかな隙間から恐る恐る中を覗き込んだ。
大きな体躯を椅子に沈めて茶を飲むジノと、立ったまま書類をめくっているルルーシュが見えた。
「そのお話は何度もお断り申し上げているでしょう。私は貴族の出ではありません。枢木にお仕えしているのだって縁者だからというだけですので……。ランペルージに戻っても兄たちの傀儡だ。私は帳簿すら触れませんよ」
「いいや、君の才能はこんな所で終わらせてしまうのはもったいない! 枢木の先代は大変有能な方だったが君もその才を受け継いでいるよ。ここ数年で枢木がどれだけ財を増やしたか、君は隠しておきたいようだけれど、枢木の家令は相当な切れ者だってもっぱらの噂だ」
ジノはルルーシュに言って聞かせるように朗々と彼を口説く。長い両手を広げて大股にルルーシュへと近づく。
「なぁルルーシュ。こんな子爵家の家令なんて君には不似合いだよ」
「……ジノ様。本日は銀行への投資のご相談と伺っておりますが」
「つれないなぁ」
その後のジノの行動にスザクは目を見張った。大きな手でルルーシュの肩に触れる。そのまま身をかがめて口づけるほどに顔を寄せた。異常なほど近いその距離にもルルーシュは動じた様子が見られない。見てはならないものを見た気がして、スザクは思わず後ずさった。
「誰ですか」
ルルーシュの声の険しさに思わずスザクはたじろぎ後ずさる。その音を聞きつけてルルーシュはドアを開けスザクを見下ろす。
「スザク様、先ほどの課題は終わったのですか」
「え……あの」
「ルルーシュも大変だねぇ。何も知らないお子様相手は」
スザクはむっとしてジノを見上げるけれど、ジノはどこ吹く風でルルーシュに向き直る。
「じゃあなルルーシュ。今度また私の屋敷にも来てくれよ、いつもみたいに」
「ええ、ジノ様」
馬車で去っていくジノを窓から見下ろしながら、ルルーシュはため息をつく。
「ルルーシュは……ジノ様と仲いいんだね」
「彼は腐ってもヴァインベルグ侯爵家の嫡男ですからね。ですが最近はよく泣きついてくるんですよ、いつまでも特権階級に甘え続けているだけですから、経済はからっきしで」
そこでルルーシュはスザクに厳しい視線を向ける。
「あなたもですよスザク様。私が言ったことすらできないような半端な態度では困ります」
「そんなっ……勉強はいつもはちゃんとしているし、少しはルルーシュと話をって」
「スザク様」
控えめながらも威圧感をもったルルーシュの声に、スザクは身をすくめる。
「あなたはまっ
たくお父上に似ていない」
また父上の話か……とスザクは内心嘆息する。
「いいですか、枢木の名を継ぐなら、あなたには完璧になってもらいます。あまり枢木と私に恥をかかせないでください」
「……あ……」
「なんですか、まだ仰りたいことがあるなら仰ってください。『旦那様』」
「もうっ、ルルーシュのバカ!」
癇癪を起こし走っていくスザクを冷めた目で見送って、ルルーシュは嘆息する。
(本当に先代に似ていない)
ふんと鼻を鳴らして、ルルーシュは出窓から空を見上げた。