紅の天鵞絨9*

!ゲンルル・モブルルR-18!

 

「あぅ、つっ、ん! 痛っ」
「男のくせに、淫乱で、貞操観念もないとは全く呆れるわ」
「あなたにっ、立てる、操などありませんから……あっ」
「うるさい! 黙らんか!」
左頬に鋭い痛みを感じる。あぁ、腫れるだろうな。スザクになんと言おうか。
「躾のなっていない好き者め……! 誰だ! また襲われたのか、それとも……」
「……なんです?」
二人とも息を荒くして、俺は痛みを堪える。今まで散々俺のことを変態的行為で好きなように扱ってきたところを、他の男の影を見た途端いい年をした親父が血相を変えてなんて無様なんだ。気づかれないようにして笑みをこぼす。覆いかぶさって腰を振る奴が、まるで玩具を取られた子どものようだったからだ。
「自分から抱かれたのか」
「ええ……、”恋人”と寝たんです」
鼻で笑って言ってやった。もう俺はただの奴隷じゃない。欲しかったものをついに手に入れたのだから。されている行為は屈辱的だけれど、心に支えがあるから耐えられる。
 
しかし突然執務室の扉が開いた。何事かとそちらに目を向けると、思いもしない人物の姿があった。
「こんな夜中に何を声を荒げとるんじゃ」
杖をつきつつゆっくり堂々とした足取りで近づいてくるのは、かの桐原公だった。日本を影で牛耳る京都六家の一員であり、枢木議員の後援者でもある。つまりは特A級の重要人物。
そんな人間がこんな時間にこんな現場に突如現れたというのに、議員は全く動揺を見せない。桐原公は後ろにつかせていたボディガードを廊下に待機させると、俺達が常識はずれなことをしている執務机を眺め不気味な笑みを浮かべ、自分は応接セットのソファに腰掛けた。自分がいるこの場が異常過ぎてどうすればいいのか思索を巡らすがいくらもがいても上にのしかかる重みはびくともしない。
「見かけるのは久しぶりじゃな、ブリタニアの皇子殿」
やっと恥ずかしい場所から萎えかけたそれが引き抜かれた。俺は出来るだけみっともないところを見せないようにとスラックスを上げ、議員に乱されたYシャツの襟をたぐり寄せ肌を隠した。
「ゲンブよ、年甲斐もなく洋人形に入れ込んどると噂になっとるぞ」
老獪な笑いが不自然に静かな部屋に響き渡る。議員はいきなり俺の二の腕をきつい力で握りしめ無理矢理歩かせると、公の目の前のローテーブルに押し倒した。
「先生っ……」
「公も如何です。私が丹精込めて仕込んだので具合は抜群ですよ」
――やめてくれ! これ以上スザク以外に触られるなんて!
俺が自分以外の男を好んで求めたのを知るや否やこうだ。なんて下劣な。
「ふ、わしはもうこの歳じゃ、若い頃なら一度味わってみたかったがのう」
好色な目で全身をなぞられる。すると公は何か面白いことを思いついたように恐ろしげな笑みを浮かべた。
「そうじゃ、部下に大層な一物を持ったのがおる。どうだ?」
「それはいい。これは私一人では満足できない淫蕩ですから」
二人は顔を見合わせて笑った。公が廊下に一声かけると、先程見かけたボディガードが再度入って来る。
「お前、これを好きにしてよいぞ」
公の発言が信じられず議員の反応を見るも、やつは着衣を整え悠々とソファにふんぞり返って座っている。当然反対の声は上がらない。
「嫌です、先生っ、こんな」
「うれしいだろうルルーシュ。また新しい男に突っ込んでもらえるなんてな」
必死で議員に追い縋ろうとも体格的に力では敵わない。反対側から顎に固いものがあてられたかと思うとそれは桐原公の杖先だった。首筋をさらけ出すようにして顎を無理矢理上げられる。
「憐れなものだ……母親さえ死なずにいればこんな目に遭わずにすんだものを」
口とはうらはらに公の口に浮かぶのは酷薄な笑みだ。
「やめて下さいっ。お願いですから」
「その男に操でも立てているのか」
議員は先程の意趣返しのように鼻で笑った。
公が顎をしゃくって指示すると護衛の黒服の手が、命令に忠実なロボットのように伸びてくる。
「やめろ! 触るなと言っている!」
「……ルルーシュ。契約を忘れたか」
その言葉を聞いた途端、あの微笑みを思い出した。お兄様と呼ぶ愛しい声。
「さぁ、ルルーシュ」
 
「…………俺を犯して下さい」

 

◆◆◆

「ひあっ、むり、そんなの入らな」
突然男を抱けなどと命令されたのに、護衛は全く動じた様子も見せずに俺にその凶器を突き立てる。先程まで議員にやられていたせいで大した苦も無く挿入されたが、こんなに大きいモノは体験したことが無かった。入れるだけで精一杯で、動かれたらどうなってしまうのか分からないほど自分のそこがきついのが感じられた。
「はあ、あっ、あっ」
「どうだこの男は。気に入ったか」
「やっ、いや、助けて、アぁっ」
「お前はここを埋めてくれるモノなら何でもよいのだろうが」
勝手にソコが収縮して、ペニスの形まで感じてしまう。
「艶のある表情をする。あの女好きのお主がブリキの皇子に執心しておると聞いた時には驚いたものだが、なるほどこれは頷ける」
「小さい頃から私が仕込んできたのですよ。それが今では自分から抱かれたがる男狂いになるとは思ってもいませんでしたがね。……色で皇帝に取り入り騎士から皇妃にまで成り上がったという母親の血でしょうな」
一瞬で血が沸騰したように怒りが体中を駆け巡った。
「は、母さんを侮辱するな!」
なりふり構わず議員に掴みかかろうとしたが護衛に押さえつけられてそれは出来なかった。なおも抵抗を続けていると見かねた桐原が口を開いた。
「やれ」
瞬間護衛が激しくピストンし始めた。
「ア! あぁ! ん、ダメ、あぁ……」
「ハッ、どんなに威勢がよくても挿れられたら喘ぐしか出来ぬではないか!」
「あぁ、おっきぃ、嫌、やらぁ」
ギチギチと出し入れされるモノは、あそこの全体を擦って、張り出した所が奥の気持ちいいところを何度も何度も突く。
感じたくない。感じたくないのに男の手管は俺の身に余るものだった。
強弱をつけて突かれ、尖った乳首を思い切りつねられる。反応したくなどないのに勃ち上がってしまった俺のものは触られないが、左右を取り囲む男たちの目線に晒され、笑いながら杖でつつかれる。
「若いのう、このように元気にそそりたって。この男はな、抱いた女をいっぺんでこの巨根なしではおれなくしてしまうんじゃ」
「ちがう、感じてないっ、あぁ、ちがっ!」
「こんなにしておってか。ひひ、面白い見世物だの」
両膝を割られ持ち上げられて、上から突き込まれ続ける。
「あぁ! はげしっ、も、もうイく、あー……!」
「ほう、触れずとも射精するのか。全く女のようじゃな」
「ひぁ、あん、イったぁ……」
自分の出したモノが顔にかかる不快感、屈辱感を覚えながらその後のことは覚えていない。

「ゲンブよ、これは伏した獣なのではないのか」
「フッ、もう牙は抜いてありますよ。何年調教したか。こうやって一応は噛みついてきますが、これは大人しく私の指示に従っているのが一番効率がよいと骨身に染みて判っているのです。……これ以上抵抗しようとするならばただの阿呆だ」

◆◆◆

父さんは宣言通りルルーシュを頻繁に仕事だと呼び出す。秘書となるため勉強させていると父は言うけれど、バイト帰りの僕よりも遅く帰ってくるルルーシュはいつもと違うせっけんの匂いをさせている。むこうで何が行われているのかは嫌でも分かってしまう。そんな日はルルーシュは真っ直ぐ風呂に向かって、僕とは極力話さずに、自分の部屋で眠る。僕はあえて何もしない。心の中は父への怒りでいっぱいなのに、何もできず歯噛みしているだけの自分が悔しい。
次の日、朝ダイニングに座りコーヒーを飲むルルーシュは穏やかにおはようと微笑んでくれた。こうやってルルーシュが切り替えることができるまで僕は待つ。昔は気づかなかったけれど、ずっと彼はそんな夜を繰り返してきたのだろう。僕は前々から考えていたことを提案してみた。
「なぁルルーシュ! 今日から三連休だよ!」
「そうか、そうだったな」
ルルーシュは読んでいた新聞の日付を確認した。
「どこか行かない? それともずっと家にいる? 君が好きな方でいいよ」
「お前バイトは?」
「休み取った! 気分転換しようよ」
「そうだな……。だけどスザク、覚えてないのか? 明日は……」
ルルーシュの何か言いづらそうな表情を見て、僕は重大なことを忘れていたのを思い出した。

「スタイリングなら会場でしてもらったらどうだ」
「いいよ。前髪上げるくらいで。ルルーシュのは僕がやったげる」
翌日僕らは重い気持ちで身支度をする。二人とも細身に仕立てられたスーツを着、ネクタイやらハンカチやらを選び、髪型を整える。
「お前でも前髪上げるだけで大分大人っぽくなるな。童顔だから似合わないと思っていたが」
「え? じゃあ似合ってるってこと?」
鏡越しに僕の頭をセットしているルルーシュを見やると、少し顔を赤くして口をとがらせている。
「っ、人並みの年齢に見えるというだけだ!」
「はは、どうも。じゃあ櫛貸して」
ルルーシュの髪は僕のものと全然違う。黒くて真っ直ぐで、僕は昔からすごく好きだ。櫛を通せば全く引っかかることはなく、とても艶やかだ。
「何してるスザク。早く前髪上げてくれ」
「はいはい」
ワックスを手に取り前髪全体になじませる。セットしてみれば、ルルーシュもまたずいぶん印象が変わる。もとから賢そうだが、更に有能そうに見える。こんな秘書がいたらさぞかし自慢なのだろうか……。
部屋のチャイムが鳴る。下に車がついたのだろう。ルルーシュの顔から表情がすべり落ちた。
今から僕らは連れだってホテルへ向かう。今夜7時から”枢木ゲンブ氏議員生活30周年記念パーティー”に出席するために。