!モブジュリ、スザジュリR-18!
列車は停まることなくすべるように目的地を目指す。車窓から見渡す景色は起伏の無い平野ばかりでなんの面白みもない。
サンクト・ペテルブルクまでの道のりは、乗客を退屈させるには十分なほど長い。初対面の人物の呼び方が変わるくらいには。
「枢木卿、私はもう休む。貴殿が対処出来ない事態が起こらない限り邪魔してくれるな」
そう言うなりジュリアスは天蓋付きのベッドに倒れるようにもぐりこんだ。
ジュリアスは頻繁に体調を崩し、用意された一等客室である自室にこもる。スザクの目にも彼は貧弱に見えた。
シャルルのかけたギアスがルルーシュの中でどう作用しているのかは分からないが、明らかに彼の神経は異常な状態にあった。
とにかくよく眠る。朝は起こすまで決して目覚めないし(それだってもう朝とは言い難い時刻だ)、スザクと共にいる時だってしょっちゅううたた寝している始末。だらしがないというよりはむしろ病的であった。
ギアスにより無理に埋め込まれた記憶を定着させるためなのだろうか。世界のどこにも存在しない、「ジュリアス・キングスレイ」という空の存在を作り出す作業なのかもしれない。
二人は同室である。それは何も列車の客室が足りない訳ではない。スザクが監視のために志願したのだ。監視というのは建前で、あまりにも危なっかしい軍師を放っておけなかったというのが正しいのかもしれない。
スザクの中でルルーシュはもう死んだ。目の前にいるのはルルーシュに似た得体の知れないなにかだ。それはスザクも分かっている。しかし目の前で動き話し生きているこの人間は一体何なのだろう。
スザクがジュリアスと初めて顔を合わせた時のことだ。ジュリアスは値踏みするようにスザクの身体を頭から爪先まで眺めた後、おもむろに口を開いた。
「私のことを知っているか?」
「……いえ」
「だろうな。ナイトオブセブン枢木卿よ、では私から自己紹介とでもいこうかな」
若き軍師は椅子から立ち上がると豪奢なマントを翻し、芝居がかった動きで部屋中を回るように歩き始めた。
「我が名はジュリアス・キングスレイ。父は知らん、母も知らん。皇帝陛下に拾われ軍で育った。この身一つでここまで昇りつめ、この度対ユーロピア戦線の指揮を一任された――というのが私のストーリーだ」
ジュリアスはどうだすごいだろうと言わんばかりにスザクを見やり、満足そうに笑う。実用性を疑う派手な眼帯の宝石が揺れ、きらきらした光を部屋に散りばめた。
「そちらは虐殺皇女の騎士、枢木スザク。エリア11の元首相のご子息だそうじゃあないか」
まぁ今となっては。ジュリアスは長椅子に勢い良く座ると、乱暴に水の入った盃を傾けた。
「帝国最強の騎士の一人に名を連ねているのだから、お互い人生どう転ぶか分からないな。しかし私は他のブリタニア軍人ほど私は貴殿を忌み嫌いはしないぞ」
次に軍師が発した言葉にスザクは鳥肌が立った。
「なんせ陛下が貴殿を引き立てられたんだ。陛下がなさることなら絶対だろう?」
そう言って彼はうっとりと笑う。
「この世界は実力が総てだ。なぁ貴殿もそうは思わないか」
それは彼が最も嫌っていた、残酷な、彼らを踏みにじった国是だった。
君が、よりによって君がそれを言うのか。スザクは怒りや嫌悪を通り越して、目の前の傀儡に憐れみを覚えた。
――この状況を作り出したのは誰だ?
自分が彼を皇帝に突き出したからだとは分かっている。けれど、その原因はルルーシュ自身にあったのだ。ゼロなんかにならなければ。ユフィの手を取り、行政特区に参加していたら。そんな夢物語をスザクはあれからずっと、いつまでも考えている。
しかし時の流れは無慈悲であり、ユーフェミアの死は逃れようもない現実であり、ルルーシュは見るも無残な状態に成り果てた。
移動中の車内。特に何をするというわけでなし。スザクはふと時計を見る。もう夜も更けたと言っていい時間だがジュリアスが部屋にいない。
ふと笑い声のような、列車の揺れによるものとは違う音が聞こえた気がして、スザクは耳を澄ました。
嫌な予感がした。ジュリアスはいない。自然握った手の平に力がこもる。かすかに聞こえた音の発生源は、廊下。
消灯時間が過ぎた車内はどこも仄暗い。どちらに進もうか迷ったが足は人気のないどん詰まりの方へと向いていた。
歩を進める度に、前方の暗闇から熱い呼気が押し寄せてくるようだった。
ついに最後尾の車両まで来てしまった。音もなく開く電動ドア。ちょうど外灯のある場所に差し掛かったのは幸か不幸か全てをスザクの眼前にさらし出した。
窓ガラスに縋るようにして身を預けているジュリアスの背に将校の一人が密着している。ともに腰を動かし続けている二人はスザクが入ってきたことにさえ気づいていないようだった。
スザクの位置からは男の楔を強請るように腰を揺らめかす黒髪の横顔が見えた。荒い呼吸でガラスを白く染めている。
「あ、あ、ふあ!」
「くっ……ああ、具合がいい……さすがここを使って本国で成り上がっただけのことはある」
「口を……つつし、めっ、……あぁ」
侮辱されてもなお、ジュリアスは愉しそうだ。
「皇帝陛下にまでこんな方法で取り入るとは。……っとんだ才能の持ち主ですね!」
「ん、いい、いッ!もちいぃ」
男の嬲るような言葉で更に悦楽を燃やすジュリアスの嬌声ばかりが列車内に満ちる。
「もっとぉ!……もっと突いて」
乱暴に抜き差しが繰り返され、ジュリアスの眼帯の飾りが窓にカンカンと音を立てて当たっていた。
「お好きなんですね。犯されるのが」
「あっあっあっ、すき……すきぃ」
目の前の淫靡な光景はスザクを驚かせた。
かつてのルルーシュからは想像できないような行為を愉しむその姿。そういうことは自分が彼に一から教え込んだのだ。最初は拒み、困惑し、それでもスザクを信じ、徐々に慣らしていったのだ。
(それを、僕が……俺の!)
「あああっ!」
大きく響いた甲高い声で、ジュリアスが絶頂を捕らえたのが分かった。その横顔。寄せられた眉。薄く開けられた瞳。絶頂の波のままに開けられた口。
一歩大きく足を踏み出していた。そのエネルギーを使って男の顔に拳を振り下ろす。めきっという嫌な音とともに拳が男の頬にめり込み、男は派手な音を立てて床へと尻餅をついた。
「なっ、……クルルギ!!」
冷静でいられただろうか。少なくともスザクは冷静なつもりだった。いきなりのことに目を見張るジュリアスの手首を掴み部屋へと連れ帰る。最初は何事か悪態をついていたジュリアスだったが、客室に帰って来る頃には大人しく、いたずらを怒られた子供のようにうなだれていた。
「入って」
スザクの言葉にジュリアスは挑戦的な目を向けた。つかつかと室内を進みベッドへと大袈裟に腰掛ける。さぞ痛そうに手首をさすりながら面白そうに笑った。
「何か言いたい事があるようだな。……どうやらクルルギ卿は同性愛に理解がないようだ」
壁にもたれ腕を組みながらジュリアスを見ていたスザクの翠の瞳は冷たい。
「ああ、水をくれないか。動いたら喉が渇いた」
場違いな程あっけらかんとしたジュリアスの言葉にスザクは自分を抑えることが出来なかった。
「……ほら飲めよ!!」
スザクはそれがいつも置いてあるテーブルから水差しを鷲掴み、ジュリアスの口元へと勢い良くねじ込んでいた。後頭部を片手でつかみ、彼がむせるのも、瓶の口が歯とがちがち当たるのさえ無視して水を飲ませる。
「水くらい、好きなだけ飲めばいいだろ!」
「ぐっ、げほっ!」
ジュリアスの目には涙が滲み、口元からは飲みきれない水が流れシーツへと染みを作った。そのだらしない様子になぜか自分が猛っているのがスザクには分かった。
「くそっ!」
背後へと投げつけた水差しは高い音を立てて割れた。
目を閉じ荒い息を落ち着けているジュリアスの頭を挟むようにスザクは両手をついて覆い被さった。
「……なんだ、クルルギ……」
お前も、か?
「なぁ、スザク」
ジュリアスがスザクを呼ぶ声は、スザクが覚えているそれとは明らかに違った。媚を含んだ甘い声。スザクをそういう対象としてしか見ていない声だ。性の対象の一人として。
遥かに隔たってしまったルルーシュと自分との距離に、スザクは絶望した。
行為の始まりはジュリアスからだった。片足を上げスザクの股間を擦るように動かし始める。
「ああ、もうこんなだ。……お仲間と思ってもいいのかな?」
「……黙って」
「ふふ」
至極楽しそうに笑うジュリアスの複雑な衣装を脱がしていく。足先まで全てを露わにするとジュリアスのペニスも天を向いていた。それをしごいてやりながらスザクは口を開いた。
「君はいつから男が好きなんだ」
「……いつから、ああ、んっ、いつからだろうな……んぁ!」
ジュリアスの可哀想なほど張りつめたそれを口に迎えてやると、温度も、感触も、味さえルルーシュと変わらなかった。同じように固くなっている乳首も両手でつねってやる。
「ひゃああ!」
どこもかしこも敏感だった。ペニスから口を離し両膝の裏から手をやり思い切り足を開かせてやる。そのままじっと見つめていれば前は徐々に力を取り戻し、後ろは触られてもいないのにひくつきだした。
スザクは指を二本舐めて濡らすとジュリアスの後腔に挿し入れた。
「ふぁ!あぁ、ん……」
「……ガバガバなんだけど、ヤりすぎなんじゃないの?」
「はっ!人気者、なんでね、……うあ、あー……」
減らず口を黙らせてやりたくて、スザクはどろどろに溶けきった後腔に性器を挿入した。
「あああ!あ、あぁ、あ!」
相手のことも考えず思い切り打ちつける度、喘ぎ声が細切れになりスザクを煽った。
その声はやはり忘れられない。記憶にあるものと同じだった。
「ああ、んあ、スザク……!」
しかし、違う。ルルーシュはこんな風に呼んだりしない。なにが違うのか明確に表すことは出来ないが、それでも確実に違うのだ。
「……すごい、あふ、ふとっ!」
「ちょっと、黙ってよ……」
スザクは涙があふれてきそうで、これ以上この偽物の声を聞きたくなくて、ジュリアスの口を塞いだ。苦しいはずなのに締め付けは強くなった。彼も被虐を好んだなと思えば笑えてきた。
「んんーー!ん!」
熟知した性感を突いてやればジュリアスは苦しさもあいまって塞がれていない片目に涙すら浮かべる。それにすら煽られて気づけばスザクは一心不乱に腰を振っていた。ジュリアスの口を塞いでいる手に彼が爪を立て始めた。このまま押さえ続けたら死んでしまうのだろうか。もう既に死んでいるようなものなのに。
「かはっ!はあは……ああん!あ、あ、いっいく、いくぅ」
ジュリアスは身をよじり酸素を取り込んだかと思えば全身に力を込めて達した。吐精を伴わない絶頂にきつく締まる中にスザクは全てを注ぎ込んだ。
その後、ジュリアスは糸が切れたように眠ってしまった。ベッドに腰掛けるスザクは規則正しい寝息を聞きながら頭を抱える。
同じ身体を抱いているはずなのになぜこうも違和感ばかりが募るのだろう。ジュリアスの中で自分はあの将校と変わらないのだ。きっと。ただ快楽が得たくて誘ったら引っかかっただけの男。
車窓の景色はどこまでも流れる。
いつか綺麗な景色が見えるとは、とても思えなかった。
それは、恋慕。
ジュリアスってパーツがアキトで入ったことで、スザクさんが偽物ルルーシュにもやもやする期間が長くなったんだなあって気づきました。