紅の天鵞絨7*

!スザルルR-18!
 
 
桜も盛りから散り始めるころ、俺達二人の東京での暮らしが始まった。
議員が用意した部屋はかなり高級なマンションの一室だった。リビングダイニングにスザクと俺それぞれの個室、そしてもう一室客間まであるという豪華さに、俺は内心ため息をついた。昔から無駄なことに金を使いすぎる男だとは思っていたが、学生風情にこんな贅沢な部屋を与えるなど……まさに囲われているようで気分が悪い。しかし、考えてみればスザクは政治家の嫡男なのだから、贅沢な暮しでもおかしくないのか。だからと言って、
「スザク……お前なんでこんなに大きいのにしたんだ」
引っ越しの日スザクの部屋に運ばれたのはダブルベッドだった。
「いやぁ、シングルじゃちょっと狭いかなと思って」
そう言ってスザクは朗らかに笑う。相変わらず考えてるのか考えてないのか分からん奴だ。二人きりになっても、俺達の生活は枢木にいた頃とあまり変わらない。炊事は俺で、洗濯や掃除は当番制だ。しかしスザクは何故かバイトを始めるらしく、入学早々忙しそうに動き回っている。
あの男が生活するには十分過ぎるほどの金を送ってくるのに、何故バイトまでするのかと訊くと、スザクは「ひみつ」とはぐらかす。別に無駄遣いをしているようではないのでまぁいいのだが。

 

そして俺はこの年になって初めて、自分の携帯電話というものを手にした。
高校の頃から既に持っていたスザクに付き添われてショップへ赴いた。俺自身は大して興味がないので店員に言われるがままに最新型に決めた。
店から出てすぐスザクは携帯を俺から取り上げると、何やら操作を始める。
「おい、何してるんだ?」
「ルルーシュ、まだ使い方分かんないだろ? 僕の番号入れとくから。へへ、誰にも取られないように」
スザクが見せる液晶画面には0という番号とともに、数字とアルファベットの羅列が並んでいた。
「0番! 僕が最初だからね」
そう言ってスザクは満足そうに笑った。

生まれてはじめて学生というものになったが、大学での勉強はとても興味深かった。学校という人が大勢いる環境は少し慣れないが、スザクと同じ学部なのでほぼ行動を同じくしている。というかむしろスザクが俺のやる事を一々心配して口を出すといった具合だ。まぁ何もかもが新鮮に感じられて、楽しく過ごしている。

 

気が重いのが”アルバイト”の方だ。
議員は東京にも私邸と事務所を持っていて、週に何度かはそこに呼び出される。将来の為といって、議員や秘書たちが様々なことを教えてくる。それが俺にとってのバイトという訳だ。
東京の秘書の人たちは皆まともな人そうで、昔のように身の危険は感じずに済みそうだ。しかしブリタニア人を秘書にするという”先生”の意向は随分な反発を受けたらしいが、それでもあの男は意思を曲げなかった。表向きは養護施設に入れられていたブリタニア人を引き取ったということにされ、己を慈善家かなにかのように演出するその保身についてはよく回る頭はまったく尊敬に値する。

◆◆◆

あの日互いの想いを確かめあってから、俺たちの関係は少しずつ変わってきている。
目が合えば微笑みあって、家人に隠れてキスも何度もした。世間一般で言う恋とはこんなに胸がどきどきして多幸感に包まれるものなのかと、ろくな経験をして来なかった俺ははじめて知った。それと同時に頭を悩ませるのはその経験のことだ。
スザクの気持ちを考えれば、父親が長年抱いてきた俺の身体などとてもじゃないが抱く気にはなれないんじゃないだろうか……。ろくでもない父親とは違って、あいつはまだキスまでしか手を出してこない。いざセックスになったら、満足させられる自信は正直ある。あとはスザクの気持ち次第、なのだろうか。

「ルルーシュ、そっち行っちゃうの?」
大学に入学してから数日後のことだった。朝からの講義に疲れてもう寝ようと自分の部屋へ行こうとすれば、後ろからスザクの声が聞こえる。
「あぁ、お前も早く寝ろよ。明日は早いだろ。おやすみ」
そう言葉を残し廊下へと行こうとしたのだが、ぱっと手を握られた。駆け寄ってきたスザクだ。後ろから抱きしめるようにして囁かれた。
「一緒に……寝ようよ」

「お前……いいのか」
「今までのことは、僕と君には関係ないことだよ。だからせめて僕といる時は忘れていいんだ」
スザクの少し躊躇うような手がじれったくて、自分の手を乗せて身体の上を誘導させる。
「俺はスザクがいいんだ。誰よりも」

 

「なぁスザク……。お前経験はある、のか?」
高校時代、スザクに彼女がいるという話は聞いたことがなかったし、そんな素振りもみられなかった。
「……君が、はじめてだよ」
顔を更に赤くして、少し恥ずかしそうに告げるスザク。心の底から愛しさがこみあげてくる。
口づけを深くすれば積極的に応じてきた。ここまでは、よし。

 

「んっ、はあ……乳首は、意外に……イイんだ。そう強く、して」
女性はおろか男性経験などもちろん無いだろう彼に、愛撫の仕方をひとつひとつ教えていく。俺の言うように手を動かすスザクが可愛くていとしい。
「あっ、そう、立ったらくりくりしてっ、あ、あぁ」
何度も想像していたスザクの手で触られているという事実に、身体が否応無しに高まっていく。
スザクの手はやさしい。今まで感じたことのない安心感があった。
「あっ、ん、もう……いいから……」
このままされていたら俺ひとりだけイッてしまう。
スザクのものに触れてみると、下着からはみ出すほど興奮してくれているようなので安心する。もしいざ男の身体を目の前にしたら勃たないとなってしまったらどうしようかと思っていたが、心配は無用だったようだ。
熱く滾ったそれを見て、思わず唇を舐めてしまう。
――あれを口で愛撫したい……。そう思う俺は、もう完璧にあいつに毒されてしまった後なのだ。いや、それよりも今ははやく繋がりたい。

 

「スザク……ここに」
四つん這いになって尻を上げる。今まで散々蹂躙されてきたそこを見せるのはこの上なく恥ずかしい。でもスザクが受け入れてくれたら、
「ここに挿れるんだ……」
俺は自分の指でそこを広げる。自分で舐めて唾液を纏わせた二本の指で中を探り、押し広げて拡張する。
「こうっしない、と入らないからっ、あ」
スザクに淫乱だと思われていないだろうか。無理な姿勢で振り向くと、真剣な今まで見たことない顔をしたスザクがいた。
「大丈夫……か?」
スザクは顔を真っ赤にして何度も頷いた。俺はすっかり勃ち上がったスザクのものを扱きながら、彼の膝に乗り上げる。
「ちょっと待ってろ、よ……」
その筋肉質な太ももに跨る前に、俺はその辺に脱ぎ捨ててあったシャツで前を隠す。
スザクは余計なものを見なくていい。はじめてなのなら尚更だ。自分と同じものがついているのはやはり見たくないものだろうから。
「んぅ、最初がキツイだけだからっ……入れば、大丈夫」
自分の指でそこを広げながら、スザクの先っぽをそこへと誘導する。じわじわと固いものがアナを広げる感覚は苦しいけれど、充実していく感じで好きだ。
「はあっ……、どうだスザク、入ったぞ……?」
亀頭を全て収めきってから、抜けない程度にぬぽぬぽと腰を振る。一気に挿入してしまってもいいのだけれど、スザクが目をつぶったり開いたりしているのが可愛くて、思わず頭を抱きしめてしまう。
「……ルルーシュ! 焦らすなよっ」
「あっ、おま、ひあぁっ!」
いきなりスザクが両手で腰を掴んで、俺の浮いた腰を下まで引き落とした。
奥までスザクでいっぱいになって、思わず声が上ずる。下から突き上げてくるスザクの動きに身も心も翻弄される。
「あっあぁ、あん……スザク、スザクッ」
「ルルーシュ……エロすぎるよ」
「あっ、あ……すざくっ!」

――欲しかったのはこれなのだ。
欲しかったスザクが、俺を抱いてくれている。俺の身体に興奮して、固い性器を挿れてくれている。
ふと昔のことを思い出した。スザクのことを想って達するようになったあの時。スザクのことを想っていたからこそあんな男どもと……。ずっと、ずっとこの時を想像してこの行為をしのいできた。
自分に触れてくる手に、こんなに安心したことは無い。
「スザク……あ、あ、あぁ! きもちい、か?」
「気持ちいいよっ……すごく、気持ちいい」
ルルーシュ、と溶けた瞳で俺の名を呼ぶ。衝動のまま唇を合わせてお互いにむさぼる。ベッドのスプリングも利用して思うまま腰を振れば、スザクもそれに応えてくれた。
「あん! スザク……」
なにも強制されない。恥ずかしいことを言わなくても怒られない。痛くしないで、ただ気持ちよくしてくれる。
「こんなの……とっちゃいなよ!」
スザクは繋がったまま俺をベッドにあおむけに転がすと、股間を隠していたシャツを放り投げてしまった。
「あっ、だめだ……こんな見たらっ」
スザクがベッド下へとなげてしまったシャツ。代わりにシーツを掻き集めてなんとかそこを隠せないかともがくがスザクの律動が許してくれない。
「ひっ、あぁっ……やめ、見るな」
「だいじょうぶだよ……ルルーシュの身体だ。萎えたりなんかしないよ」
スザクがそんなことを言いながら俺のに触れてくるもので、俺はスザクの頭を抱いて耳許で喘いでしまう。
「んん! はっ、ああぁ……すざくぅ」
あれだけ夢みたスザクのペニスが俺のナカを出たり入ったり。それがこんなに気持ちいいなんて思わなかった。
「ルルーシュッ……すごいね、すごい、気持ちいいよっ!」
スザクの顔を見れば、いつもの甘さが削ぎ落とされた男の顔だった。いつもとのギャップに思わず後ろをヒクつかせてしまう。
「ふっ……締め付けないでよ、いっちゃうから……」
「何度でも、いけよ。俺の、ナカで……」
スザクはふっきれたように腰を振り始めた。それは俺が経験したこともない速い動きで抑えきれない喘ぎがもれてしまう。
「ひあ! あっあっ、だめ、すざくはや、あ……もういく、いっちゃ」
「いってルルーシュ。……君のいくところが見たい」
「あっ、ああーーっ!」

翌朝、スザクが大きいベッドを買った魂胆がやっと分かった。

 

やっとスザルルです。