美味なる沈黙*

!R-18! 現パロスザルル。日本で夏休み。

 

真っ青な空には同じく真っ白な大きな雲が浮かんでいる。異国の空は何故だかいつも見ているものより高く感じる。サングラス越しでも久しぶりの日差しに目が痛んだ。
日本の夏がこんなに暑いなど、ルルーシュは思っていなかった。大陸とは異なるジメジメとした湿気にやられてしまいそうだ。
「はい、コーヒー。冷たい方がよかっただろ?」
「ありがとう。助かる」
カウンターから戻ってきてテーブル席の向かいに座りシェイク状の甘そうな飲み物を吸うのは、ルルーシュのフラットメイトかつ恋人の枢木スザクだ。
「抹茶久しぶりだなぁ! 美味しい。ルルーシュも飲む?」
チョコソースまで乗せたそれはいかにも甘くて胸焼けがしそうで、ルルーシュはスザクの気持ちだけ受け取った。長時間のフライト後にそれはきつい。

 

今回、ルルーシュは初めて恋人の母国である日本にやってきた。大学で出会ってルームシェアすることになった日本出身の恋人。
「とりあえずちょっと休憩したら東京まで出て新幹線で京都に向かおう。やっぱり日本に来たならお寺とか神社とか見ないとね!」
ガイド役をかって出たスザクは意気揚々とスマホで旅行サイトを見て情報収集に忙しい。
「ねぇ、見てよここ! 石と石の間を目をつぶって歩けたら恋愛成就するんだって」
「はは、神社の息子がそんなに浮かれて。よその神様に浮気してもいいのか?」
「神様はそんなことで怒ったりしないよ。君と一緒に行くのが楽しいんじゃないか」

スザクが生まれ育った国。故郷。そこには八百万の神がいて、芸者や忍者がいるという。話に聞くだけで神秘的で魅力的で、ルルーシュはいつか行ってみたいと思っていた。
そろそろ夏になろうかという頃、バカンスはどうするのかとルルーシュは少し期待しながらスザクに訊いた。自分を故郷に誘ってはくれないかと。スザクももし断られたらどうしようと思いつつ言い出せなかっただけで、二人の考えていることは同じだった。
「でもペンドラゴンの家はいいの? ナナリーもお母さんも、あのお父さんも待ってるんだろ?」
「俺の場合は同じ国内なんだから帰ろうと思えばいつでも帰れる。ナナリーとはいつもテレビ通話しているし、親父に会っても仕方がない」
ルルーシュの妹ナナリーは高校生で、スザクとも通話越しに顔馴染みだ。たっぷりした薄いブラウンの髪が印象的な女の子で、皮肉屋のルルーシュにはあまり似ておらず素直ないい子だ。しかしこの兄妹どちらもブラコン・シスコンの気があるようで、放っておくといつまでも電話しているので(主にルルーシュが聞き役だが)、スザクはいつも少しやきもちを焼いている。
一方、父子仲はあまりよくないらしく、ルルーシュが言うところでは父が息子の年齢も性格も考えず構いすぎてくるせいで暑苦しく思われている。だがそれも父親の愛情の裏返しで、それを見聞きしスザクは自分の父を思った。社会的にある程度の地位を持ったスザクの父親は一人息子と疎遠にしている。母がその間を取り持つという前時代的な家族だ。

今回スザクはルルーシュを18まで育った実家に泊めることにした。ブリタニアに留学した先でアパートをシェアすることになった同居人。あくまで友達として紹介するつもりだ。二人で話し合った結果だった。いきなり息子が男の恋人を連れ帰ったら、留学にも否定的だった保守的な両親(とくに父親)を困らせてしまうに違いない。ありのままを伝えられたらどんなによかっただろう。でもその時は今ではないと冷静なルルーシュは言った。

 

京都・東京と渡り歩いて辿り着いたスザクの実家の最寄り駅は、閑散とした地方都市といった様相だった。ルルーシュにとって初めて見る田舎は日本の素の顔といった様子に見えた。
「母さんまだ来てないみたいだ。ここ座って待ってようか」
ロータリーを見渡していたスザクは日陰のベンチにルルーシュを座らせた。
少し先のバス停に路線バスが到着し、制服を着た学生の一行が降りてきた。半袖からこんがりと日焼けした腕を出した少年たちはほんの一、二年前のスザクなのだと思うと、目の前でTシャツの襟を広げ暑さをやり過ごしている彼がどこか遠いものになった気がする。自分とは全く違う生活をしていた人が、今こうして一緒にいる。不思議なものだと思う。
「あの制服! 懐かしいなぁ。僕もあれ着てたんだよ」
ルルーシュの視線の先を見たスザクは得意げに言ってみせた。
「日本ではほとんどのハイスクールが制服なんだって?」
「そう。皆同じ服着てるんだよ。着崩したりすると怒られるんだ。ネクタイ緩めたり、ズボンを腰で履くのが流行ったり……。なんだったんだろうね、あれ」
「スザクもやってたのか?」
「いや、僕は優等生だったから」
「ほんとか?」
くすくすと笑いながらルルーシュは学生をみて高校生のスザクを思い描く。薄いブルーの開襟シャツと紺色で系統を合わせた縞のネクタイ。濃紺のスラックスをベルトで締めた、今でも充分童顔だが今よりも幼いスザクの姿を。
「夏服はまだいいけど冬服のブレザーなんて、一年生の頃は将来大きくなるからってぶかぶかのを着てたよ。結局卒業するころには少し小さかったかな」
ほんの少し前なのに先輩ぶって感慨にふけるスザクが可愛く思えた。
「なに笑ってるの?」
「なんでもないよ」
でも、とスザクは改札から出てきた違う服装の、こちらも高校生と思われる少年に目をやった。
「君はあっちの学校の方が似合うと思うな」
夏の日差しが反射するほど真っ白なシャツに、対称的な黒のズボン。革靴に至るまで黒く輝いている。二人がいる方へと歩いてきた少年を見るともなしに見ながらルルーシュはスザクの説明を聞いた。
「あれはちょっと遠くの進学校の制服なんだ。学ランって分かる?」
「ああ、詰襟の」
「そう。冬服は真っ黒でさ。なんか……君に似合う気がする」
「俺は、スザクと同じものが着たかった」
「ふふ、嬉しいなぁ。あの頃ルルーシュに出会えてたら、君と同じ学校に通ってたら、どんなだったろうね」
去り行く学生服を見ながら、二人で有り得たかもしれない日々を思った。

「あ、母さん来た」
黒塗りの車がロータリーに音もなく滑り込んできた。運転しているのは初老の男性でお抱えの運転手なのだろう。日頃の屈託のない態度ですぐ頭から離れてしまうが、スザクはいいとこの坊ちゃんなのだった。そう思うルルーシュもルーツを王室にもつ富裕層の出身なのだが。
助手席に乗っているのはスザクと同じ茶色のくせ毛が可愛らしい印象を与える美人で、19歳の男の子を持つ母親としては充分若かった。
「スザク、おかえり。あなたがルルーシュ君ね」
息子への挨拶はそこそこにスザクの母は隣のお客さんに夢中だ。
「はじめまして、ルルーシュ・ランペルージです。スザクさんにはいつもお世話になってます。今回はお邪魔してしまってすみません。よろしくお願いします」
「こちらこそいつもご迷惑をおかけして」
ぺこぺことお互いに頭を下げる二人がスザクには照れくさかった。これ以上二人を放っておけばここでスザクの誕生から留学生活までの歴史を語る会が開催されてしまう。それは恥ずかしい。
「はーい、ルルーシュスーツケース積むよー」
スザクは運転手と二人でトランクに荷物を詰め込み、とっとと後部座席に乗り込むようにルルーシュに目配せした。
「ルルーシュ君も早く乗って! 今日はごちそうを用意したの。楽しみにしててね」

 

駅から離れ徐々に山深い方へと登っていく。だんだん人家はなくなり、車は瓦屋根の乗ったしっかりした木造の門を入り砂利道を進む。両側にきちんと整備された芝生が広がる庭に出た。立派な枝ぶりの松が等間隔に植わっている。
「ここは……公園か何かか?」
「え? もう僕ん家だけど」
そうか……と呟きルルーシュはまじまじと窓の外を眺めた。やっぱりこいつはお坊ちゃんだ。
車が止まったのはレンガ造りの建物の前だった。
「いらっしゃい、ルルーシュ。枢木家にようこそ」
玄関を入ると、そこは瀟洒な洋館だった。正面に緋毛氈の敷かれた螺旋階段があって、頭上には嫌味でないシャンデリアがついている。控えて頭を下げる使用人たちも口々にスザクの帰宅を喜んだ。

その日の夕食は天ぷらに刺身にちらし寿司、あとは細々した小鉢が所狭しと卓上に並べられた。スザクの母も混じえ和気あいあいと食事は進んだ。会話は二人の大学生活からルルーシュの家族に至るまで、母親は根掘り葉掘り聞きたがった。
「もう、母さん。そんなに質問攻めにしたらルルーシュが困るだろ」
「あらごめんなさい」
「いいんですよ。お母さんとお話するのは楽しいです」
「まぁ嬉しい」
それでこの子ったらね、と母のおしゃべりは止まらない。スザクは心を無にして目の前の料理に向き合った。

 

夕食後は今回の寝室であるスザクの部屋がある屋敷に通された。洋風の本館とは打って変わって純和風な造りにルルーシュの胸はときめいた。
「ししおどしがあるじゃないか……!」
縁側に囲まれた中庭はごつごつした岩が点在し、一面を苔に覆われた立派なものだった。その中でも、錦鯉が泳ぐ池の縁にある竹の筒にルルーシュは目をつけた。いつ鳴るかと待ってみてもびくともしない。そもそも水の流れる音も聞こえない。
「ああ、あれ? うるさいから止めてあるんだ」
こいつにかかれば風情も糞もないなとルルーシュは内心呆れながらスザクに続いて板張りの廊下を進む。
「ここが僕の部屋。隣の客間も繋げて使おう。布団敷いてもらってあるし」
襖を開け放つとスザクは布団へと倒れ込んだ。
「あー、帰ってきたって感じがする。畳の懐かしい匂い」
スザクの部屋はまるで昨日泊まった旅館のようで、生活感があまり感じられない。唯一少し古ぼけた勉強机だけが主の歴史をうかがわせる。
「意外に殺風景だな。お前のことだからもっと散らかしてるかと思った」
「そう? ブリタニアの僕の部屋だって綺麗にしてるだろ。ここは僕が出ていっても掃除してくれているみたいだね」
スザクの思い出を部屋中から拾っていたルルーシュは優しい顔をしていた。

「……ルルーシュ、来て」
スザクは熱っぽい声音で彼を呼んだ。
「とりあえず、スーツケースの荷物を」
「いいから」
布団にうつ伏せで寝転がって顔だけを上げているスザクにルルーシュはひたひたと近づいき隣に座った。何となく呼ばれた理由は分かっている。それを甘えて待っている顔だ。
横から覆いかぶさってちゅっとおでこに唇を降らす。ルルーシュの髪が落ちてきて視界が暗くなった。自分たちだけの空間のカーテンのようだ。

「廊下の先が母さんの寝室なんだ。だから今日は静かにしてなきゃダメだけど……いい?」
「……分かっている。平気だ」
首筋を湿ったくちびるが這い回る。不埒な動きにルルーシュは息を詰まらせる。
「フラットみたいに壁が厚ければなぁ。いつもみたいなルルーシュのすっごい声聞けるのになぁ」
「バカ! そんなに大きくないだろ」
「え、気づいてない?」
「……そんなにか」
むっとしていたのから一転して、隠そうとしても不安そうな色が見え隠れするルルーシュの表情に、スザクはからかいすぎたことをフォローしようとする。
「だっ大丈夫だよ!僕いっぱい声出してくれる方が燃えるから──いてっ!」
そばがらの枕でぼふっと殴られた。ルルーシュは先程とは打って変わって楽しそうに笑っている。
「はは、ばぁか」
「もー……」
年相応の少年らしくからかいあっていた二人だが、見つめ合うとすぐに空気が異質なものになる。
自然と近づいて、互いの唇を喰む。その段階に満足すると次第に舌が境界線を破っていく。その頃にはもうルルーシュの意識は入ってくるスザクだけに集中する。尖らせた舌先で上顎をくすぐられると腰がずんと重くなり、熱い息が漏れる。
「……ん、ん、う」
声が出るようになると、スザクはたまらなくなってルルーシュの首筋に腕を回してもっと彼を引き寄せる。
流石に息が続かなくなりルルーシュは顔を上げようとするが、息継ぎをした途端に首に回された腕に強く力を入れられ再び陥落する。ぺちゃぺちゃという音とくぐもったうめき声が部屋を満たす。
頭がぼうっとして他のことが考えられなくなる。
力ずくでルルーシュは畳に押し倒され、上下入れ替わった形で再びキスが始まる。先程はスザクの方に流れていたどちらのものか分からない唾液が次はルルーシュの方へと注がれる。
溺れそうだと思う。

 

スザクは電灯を消すために立ち上がった。灯りが消えると窓からの月明かりが室内を薄く照らした。思ったよりも明るかった。
(あ……スザクの、もう……)
暗闇に目が慣れた頃、スザクの白っぽい浴衣がぼんやりと浮かび上がった。はだけた浴衣のあわいからのぞく雄蕊はもう既に兆していた。
花の蜜に吸い寄せられた蝶のように、ルルーシュはスザクの足元までにじり寄り、性器に口づけた。ぴちゃと湿った音が鳴る。先端から潤みが出ていたために口の中に味が広がった。独特の、もう慣れてしまった味。
(スザクの、ペニスの、味……)
そう思うだけでルルーシュのものも角度を変える。いつものようにスザクの反応を見つついい所を攻めていく。
先だけを含んで丸い飴玉のように舐め回す。スザクが熱い息を吐いたところを確認すると、瞳を合わせたまま顔を前に出し更に深くまで迎え入れる。息を上げながらスザクはルルーシュを見下ろして笑う。満足そうな笑みにルルーシュはこの奉仕がうまくいっていることに嬉しくなる。
性器の浮き出た筋に沿って舌を滑らせ、ある程度成長したところですぼめた唇の輪でしごいてやる。
(かたいな……)
いつもだったらスザクに教えられた通り派手に音を立ててしゃぶるのだが、それも今日は自重しておく。静かに、しかし確実に二人の周りの空気が湿っていく。
一旦それを口から出し、ルルーシュは呼吸を整える。その間も両手で愛撫することを忘れない。片手は竿、もう片方は先端、一息ついた口では双玉をくすぐる。スザクが息を詰め、眉根を寄せる。頂が近い。最後はちゃんと口内で受け止めたい。そう思うだけで唾が溢れる。腕を下ろし、再度かぶりつくようにくわえた。
(もっと、ふかく)
──ちょうだい。
顔を前後しながらどんどん深くまで飲み込む。目で訴えれば、ルルーシュがえずくギリギリまで深くそれが差し入ってきた。黒髪を梳かしていた大きな手はルルーシュの頭を鷲掴みにしまるでモノのように、性処理に使う道具のように抜き差しを繰り返す。被虐の愉しみを知るルルーシュを満足させる為にわざとやるのだ。
「っぐ、う……」
陰毛が鼻先をくすぐっても、吐き気に涙が溢れそうになっても、こうされて嫌だとはルルーシュは微塵も思わない。
(俺の身体は全部、口も、アナルも、全部スザクの物だから)
そう思った途端に下の口が疼き出した。
「はっ……」
突き入れられて、揺さぶられて。身体の芯を乗っ取られるような感覚。主導権はスザクのものになって、ルルーシュは全て従うのだ。

スザクに抱かれ出す前は慎ましやかだった後ろ口が、今ではぽってりと紅く色づいている。どこがどう気持ちいいのかルルーシュはもう自身でも分かっている。自慰で弄るからだ。
おそるおそる差し込まれていた人差し指は今では期待を込めて迎えられる。ぐちょぐちょと自分の動きで出す音と聞かせる者のいない鳴き声はルルーシュの性感を煽った。入り口をくりくりと愛撫し、腹側の前立腺を撫で、中指で届くいっぱいまで挿入する。届かない。スザクのものでなければ届かない快楽の源泉。ああ、早く。
淫らな想像でますますアナルをひくつかせるルルーシュの陶然とした表情に、スザクの動きが激しくなる。性器がびくびく震えるのを敏感な口内で感じる。
(早く、早く出せ)
待ち焦がれたものがやってきた。
「ん、んぅ」
むせない術は心得ている。ピークを過ぎれば、口をすぼめてこぼさないように、力の抜けたそれを抜き出す。
(いっぱい……)
見せつけるようにスザクの瞳を見つめたまま、一回ずつ飲み下した。口を開き舌を出して全部飲み込んだことを証明すると、スザクは満足そうに笑って頬から顎に撫でるように触れた。ルルーシュは背筋をぞくぞくさせた。
「やっぱりルルーシュは上手だね。気持ちよかった」
しゃがみこんだスザクに耳を舐められながら囁かれるともうだめだ。
「もうガチガチだ。舐めると興奮するの? 可愛い」
合わせに潜り込んできた手のひらは少し湿っぽかった。スザクが興奮しているとルルーシュは嬉しくなる。いよいよ帯に手をかけられ、浴衣を左右に広げられた。
「後ろ、触るね」
ルルーシュは期待した目で頷いた。

(ああ! 入ってきた!)
ずぱん! と一気にそれが入ってきた。
「──っ! あ、ぁめ、だめっ」
狭い中をずるりと固いもので埋め尽くされた。
ルルーシュは脳内で、以前見た卑猥な絵を想像した。女性のそこの断面を切り取り、男性器がそこを満たすさまを描いたものだ。ずちゅずちゅと出し入れされる度にルルーシュの頭の中の絵も動く。自分のそこが広がってスザクを受け入れるさまを想像して、自分で自分を犯していく。高まっていく。
「うっ、んぅ……は、はっ」
「ルルーシュと、僕の部屋でセックスしてる……」
何も知らない子供の頃から過ごしてきた場所で、思い出がそこかしこにある場所で、男とアナルセックスに耽っている。その事実がスザクの中で鋭い痺れとなって脳天から爪先までを震わせた。
(スザクの、ペニス、奥まで入っちゃう!)
もう一段階腰を密着させて入ってきたそこは近頃二人で見つけ出し、愉しんでいる場所だった。ルルーシュの奥の奥。その門をこじ開け何度も強く突かれると、声が溢れて止まらなくなる。全身の力が抜けて、そこだけに意識が集中するみたいに勝手に身体がガクガク震えだすのだ。
(またあそこ開かれちゃった……おかしくなる……)
「ルルーシュの奥が、僕のちんこの先っぽ包んでるよ……ここすごいね……っ。ちゅぱちゅぱしてる」
「ふぅ……はっ、ん……耳、もっ、あぁ!」
静かにしろといった手前、スザクもルルーシュの耳元でひそひそと言葉をささやく。それもとびきりいやらしいことを。
「……しーっだよ。ルルーシュ、我慢してね」
(それ以上来ちゃ……、奥に熱いのッ)
「も、だめだっ。……でちゃう、ぃっちゃ」
(いつもみたいに、奥まで、どろどろに……)
自分では届かないところまで濡らされる想像で、また後ろがひくついた。ずこずこと容赦なく動いていたスザクも、限界が近いのか息が荒くなってきた。
「スザクッ、いって、ぃって……っ」
(じゃないと、声が、大声をあげていってしまう)
もうすぐに迫る絶頂にルルーシュは前後不覚でただはくはくと口を開け閉めすることしか出来ないでいた。
(もう、なんでもいい、きもちよくなりたい)
「ア! ぁああ! ──んぅ!」
ルルーシュがオーガズムを迎えるその瞬間、スザクは声を奪うようにその口に噛みついた。
酸欠気味の身体は痙攣を起こしたかのようにがくがくと震えた。いつもより激しい身体の反応にルルーシュの脳はついていくことが出来ず、ただ涙だけがだらだらと零れた。スザクも気持ちのいい最奥に思い切り精を吐き出したい思いでいっぱいになったが、最後の理性が彼を現実に引き止めた。キスをしたまま、種つけをねだるそこから自身を引き抜き、ルルーシュの腹の上へと欲望を吐き出した。
徐々にクリアになっていく頭でルルーシュを見下ろす。出すこともなく気を遣った彼は虚ろに宙を見つめ、ただあはあはとまるで静かに笑っているように息をするのに精一杯のようだ。
スザクは乱れきったルルーシュの様子に背筋をぶるりと震わせ、自身をしごいて一滴も余さず白濁を出し切った。雫は弧を描いてルルーシュの腹へと落ちた。

 

「おはよう。まだ眠い?」
「ん……おはよう」
昨日は気持ちよかったね。思い出させるように吐息混じりに囁かれると、ルルーシュは昨晩散々愉しんだというのにまた腰が痺れてしまう。後ろから抱きしめられている為にスザクの腰が密着している。
「っ……朝から、やめろよ」
ルルーシュは邪念を振り払うように頭を振って、二人で被っていた薄掛けをひっぺがした。
「えー、いいじゃん。まだ早いよ?」
「折角日本に来てるんだ。ここでしか出来ないことをするべきだ!」
「ん、よし分かった! 今日はこの辺を散策しよう。……えっちはいつでもできるしね」

朝食を済ませたルルーシュとスザクは、手始めに庭を見て回ることにした。昨日見た池の周りでは、庭師が雑草を抜いている。
「スザク、あの建物は何だ? あの白い壁の」
「蔵だよ。僕の秘密基地。子供の頃はずっとあそこで遊んでたな」
ちょっと鍵取ってくるねとスザクは家の方へと走っていった。
「蔵か……」
日光が青い瓦に反射して目を焼いた。二階建てのそれは古ぼけて小さいのに、異様な存在感でルルーシュを圧迫する。──まるで自分の体が小さくなったような錯覚に陥って、絶望感が胸を撫でる。これは白昼夢だろうか。
「お待たせ。今開けるね」
小走りで戻ってきたスザクの声に現実に引き戻された。重そうな青銅の錠前にカギを差し込み扉を開くと、真っ暗だった室内に一気に陽光が射し込んで空中の塵を浮かび上がらせる。
「うわー、ほこりっぽい! 吸い込まないように気をつけて」
ハンカチで口を覆いながら一歩足を踏み入れると左右に長持がいくつもあった。壁際にはバットや竹刀、それにゴルフバッグなどスポーツ用品も置かれている。
「どれもスザクの思い出か? これなんかよく使い込んでる」
グリップがボロボロに剥がれたテニスラケットを手に取りながらルルーシュは訊いた。
「うん、ここは全部僕のもの。ほら見て見て! 小さい頃のアルバム!」
スザクは手当たり次第に長持を開けて中を検分している。その中の一つは大量のアルバムで埋め尽くされていた。
スザクが広げた一冊にはおくるみに包まれた生まれたばかりの赤ちゃんの写真が貼ってある。
「本当だ。お前、可愛かったんだな。この頃から髪がくるくるだ」
「そうだよ。僕は可愛いんだ」
父親はあまり写っていないけれど、きっとレンズの向こう側にいるのだろう。母親の周りにまとわりついて遊んだり、甘えたり。生き生きとした幼い頃のスザク。初めて立った時や歩いた時には母親らしき字でコメントも書いてある。
ルルーシュも別の一冊を手に取り開いた。ぺりぺりとくっついていたページが剥がれて、現れたのはユニフォームを着たスザクが打席に立ってバットを構えている写真だった。
「これは? スザクは野球やってたのか」
「これは中学生の時だね。結局3ヶ月くらいで辞めたんだけど。写真あったんだ」
「辞めたって……なにかあったのか……?」
こいつにも暗い過去が……とルルーシュがまじまじと見つめると、スザクは罰が悪そうに頬を掻いた。
「いや、僕運動神経が良すぎて……ピッチャーやったら速くて誰も打てないし、バッターなら常に場外ホームランだし、守備も人の分まで捕っちゃって……」
皆のために転部しました、と特に悲壮感もなくスザクは説明した。
「それは……逆に大変だな」
運動神経がよくないことを自覚しているルルーシュは持つ者の苦悩もあるのかと内心羨ましく思った。男に生まれたならやっぱりスポーツで活躍してみたかった。
ページをめくると次々と違うスポーツをしているスザクが写っている。剣道、サッカー、テニス、陸上、馬術……。
「それでクラブを転々としたって訳か」
「はい。三年の夏は引っ張りだこでした」
そういえば母屋にトロフィーがたくさん入ったガラスケースがあったなとルルーシュは思い返す。全部スザクのものだったとは。
恥ずかしそうに、でも嬉しそうにスザクはページをめくる。これだけ写真が残されているなんて。彼が愛されているのだということをルルーシュはひしひしと感じた。

土蔵を離れ、そばの竹林の中の道を歩いた。竹の枯れた葉が降り積もった地面はふかふかしている。背の高い竹に囲まれているので日陰になっていて比較的涼しかった。葉の間から射す太陽の光がちらちらと陰った地面を照らしている。
屋敷から見えなくなった頃に繋がれた手は、ルルーシュを林の奥へ奥へと誘う。
「結構歩いたがどこまで行くんだ? また秘密基地か?」
「もうすぐ着くよ。ほら、あれ」
地面が土から砂利に変わった。
「これが……」
「ああ、枢木神社だ」
古い小さな木造の建物が見えた。正面に二三段の階段があって、その上には根元に大きな鈴がついた太い縄が垂れ下がっている。こじんまりとしてはいるが神聖さが感じられる空間だ。
「うん、変わってない」
神殿に参拝を済ませ鳥居を出ると視界が開け町が見下ろせた。階段に座って眼下のひまわり畑を二人で見つめる。
「下から登ってきた方が鳥居が見られて良かったんだろうけど、ルルーシュにこの階段を登らせるのは酷かなって思って裏道から来ちゃった」
「お気遣いどうも。……確かに結構な階段だ」
「走って登ってトレーニングしてたんだよ」
これを登るのはさぞかし骨が折れるだろう。ましてや誰かをおぶりながらなんて……。おぶる?──一体誰を?

「大丈夫? 気分悪い?」
どこか遠い目で階段の中腹を見下ろすルルーシュにスザクは思わず声をかけた。
「ああ、なんでもない。ちょっとぼーっとしてた」
「あ! はいこれ」
スザクは背負っていたボディバッグからスポーツドリンクのペットボトルを取り出しルルーシュに手渡した。汗をかいているそれはとても冷たい。
「悪い。スザクにしては気が利くな」
「だって君に熱中症で倒れられたら洒落にならないし」
珍しくカバンを持っていたスザク。こういうことだったのか。思いやりに感謝しながら飲んでいると、隣から視線を感じた。
「僕もちょうだい」
キャップを外したままボトルを渡すと、スザクは躊躇いもせずそれをあおった。
いつからだろう。互いの距離が近づいて、近づきすぎて友達の範囲を超えたのは。スザクの首筋を流れる汗すら特別なものに思える。無言で差し出された手のひらにキャップを乗せた。

 

それからスザクの運転する車でドライブしたり、富士山に登ったりして(車で行ける所まで)のんびりとした二泊三日を過ごした。
帰国する日の朝、荷物をパッキングしているとスザクが名残惜しそうに呟いた。
「なんかさみしいなー。ずっとここでルルーシュと暮らしたい。味噌汁を常に飲みたい」
「ブリタニアで作ってやるから。俺ので我慢しろ」
「えっ、今のって」
「プロポーズではない」
「ちぇーっ。でもいつか僕からするから待っててね」
そろそろ出発しようかという頃、襖の向こうから声がかけられた。
「失礼いたします。スザクさん、母屋で奥様がお呼びです。お客様も」
「はい、今行きます。……なんだろ? 今から顔見せようと思ってたんだけど」
居室に着くと、布張りの椅子に男性が座っていた。その顔はルルーシュでも見知ったものだった。
「父さん」
スザクは少し驚いている。自宅で父親に会うことに驚くのも変な話だが。
「……お帰りなさい。こちらルームメイトのルルーシュ」
「はじめまして」
ルルーシュは人好きのする笑みで挨拶したが、父親は何も答えず、空間を気まずい静けさが支配した。
「お父さんね、あなたたちに会うためにいきなり帰ってきたのよ」
スザクの母がフォローする中、父親は重い口を開いた。
「もう行くのか」
「うん。大学始まるし」
父子の会話は短文で終わる。そうか、と呟く声は少し残念そうだ。父親は息子から視線を離し、ルルーシュを真正面から見つめる。
「息子をよろしく」
枢木ゲンブは膝に手を置いて軽く頭を下げた。

 

「父さんは僕に興味がないんだと思ってた」
空港へ向かう電車の中、スザクはぽつりと呟いた。
「小さい頃から何をしたって褒めてくれなかった。テストで100点とっても、全国大会で優勝しても。ブリタニアに行くって言った時だって、僕は父さんの……首相の息子だって色眼鏡で見られるのが嫌で飛び出したんだけど、あの時ひどい喧嘩をしたんだ。もう勘当だとか言われたし、僕もひどいこと言ったし」
「……でも違ったな」
「うん……。思ったよりも」
困ったように眉を下げて笑うスザクは満足そうだ。お前が愛されていないはずがない。その屈託のない陽だまりのような優しさは愛されたもののそれだとルルーシュは思った。自分の父は何をするにも過干渉だったが、余りに構わないのも誤解の元で、世の父親というのはとかく誤解されやすい。少しは父に優しく接してやろうかとルルーシュは心を改めた。

 

電車を乗り継ぎ空港に着き、チェックインを済ませた頃、スマホが着信を告げた。
「リヴァルだ」
電話をかけてきたのは同じ大学に通うルルーシュの高校時代からの悪友だった。日本に来るということは伝えてあったので何か急ぎの用件だろうかと、スザクの目を見ながらルルーシュは電話を耳に当てた。
「もしもし。リヴァル? どうした」
友人から伝えられたのは衝撃的な内容で、ルルーシュは自分の耳を疑った。
「すまない……もう一回言ってくれないか」
『だーかーら! お前たちが住んでる寮が火事だって! もう鎮火したけど、全焼!』
日本にいるんだよな、と自分たちの身を心配してくれる友人に礼を返すと、とりあえずルルーシュは通話を切った。

「スザク……。寮が燃えた」
「……え? えぇ!? 僕たちどこに帰ればいいの!?」

──To be continued.

 

なかなかお家でおせっせできないシリーズにしようかな。続きは未定!