いつか成長する雛*

スザク=もこちーな幼児ルルーシュ。ぬるぬるのR-18。
温かさで目が覚めた。
室内はまだ薄暗く、枕元に置いていたスマホで時間を確認するとまだ早朝だった。僕が腕を伸ばし動いたせいで隣で寝ている人物から抗議の声が上がる。うーとうなり僕の体を抱く腕がきつく閉まった。横からぎゅーっと抱きつかれていて、その人肌の温かさで目が覚めたみたいだ。僕はあの黄色い不思議なぬいぐるみではないのだけどと思いつつ、しばらく味わっていなかった幸せな感覚に浸る。けれどこれではまるで恋人というより母に甘える幼子のようだ。今までこんなに全力で照れずに甘えられたことがあっただろうか。嬉しいけどそれと同時に戸惑いもする。ルルーシュが心を閉ざしてしまった。
抜け殻となったルルーシュは何を聞いても答えることはなく、自発的な行動はしない。誰のことも認識出来ずただそこにいるだけの人形。茫洋と濁る瞳は以前の利発さを全く欠いていたし、糸の切れたマリオネットのように四六時中寝そべる姿は、どんな時でも背筋をきちんと伸ばしていた彼からは想像できなかったものだ。

変わってしまったルルーシュと再会したのは一週間前。
どういうルートを使ってか、セキュリティは世界一のはずのゼロの生活空間であるこの部屋にいきなりやって来たC.C.の後ろに彼はいた。

――僕は自分が遂におかしくなったのかと思った。
彼は、ルルーシュは僕がこの手で貫いた。その肉の感触と血の温かさはしっかりと覚えていて、忘れようとしても無理だった。彼は僕の仮面に触れながら隣をすり抜けて落ちていき、ナナリーの元で絶命した。それは紛れもない事実だと信じていたから。

なんでルルーシュが生きているのか。僕たちはやっと互いに隠し事をなくしたんじゃなかったのか。騙された! ゼロ・レクイエムは茶番だったのか! 訳が分からなくなって、とりあえず怒りが湧いてきて、僕は掴みかかって襟首を締め上げて殴りつけようとしたらしい。

「ひっ! うわああああ」
予想もしていなかったうるさい叫び声にひるんでぱっと手を離してしまった。するとC.C.がかばうように両手を広げて間に入ってきて、ほぼ同時にルルーシュらしき人物がC.C.の背に隠れた。
自分より背の低い女の後ろに背をかがめて隠れている男。はぁはぁと息を切らしながら意味のない叫びを上げ続けている。僕がもう殴りつけることはないと判断したのだろうか、C.C.はルルーシュの頭を抱き締め落ち着かせようと大丈夫だ大丈夫だと囁いた。ルルーシュも彼女の背に手を回してきつく縋っている。まるで子と母のようだった。

「……それは……なんだ」
喉がひりひりして口の中が乾いてかすれた声しか出なかった。唾を飲み込みながら、きっと僕は凄い目でC.C.を睨んでいたに違いない。

この世の終わりを見たかのような顔で語り出したC.C.によると、彼は生命活動を続けているが心はどこかに行ったままなのだという。C.C.は自分のわがままで彼をこの世に引き留めたと言った。ルルーシュは死のうとしていたと。こんなに憔悴した彼女を見たのは初めてだ。いつも悠然と構えていた人が追い詰められているとこちらも不安になってくる。

洗いざらい話を聞き出したところによると、ルルーシュは体は死なずに済んだが心が精神世界から帰ってこないのだそうだ。にわかには信じがたいが僕もCの世界に行ったことはある。そういう不思議なことも有り得るのだろうと、自分を納得させる。だってそうするしかないじゃないか。目の前の抜け殻がずっとこのままだったら? ルルーシュの尊厳を、遺志を奪った結果がこれなのか? そんなの悲しすぎる。

C.C.はルルーシュの心を元に戻すために、彼を連れて世界中の遺跡をあたっているのだという。しかしどこへ行っても成果はなかった。そこで彼女は最後の望みをかけて、彼が生前親しかった者に会わせればショック療法のように正気に戻るのではないかとここへ連れてきたそうだ。……その様子ではこの作戦も失敗に終わったのか。

「ナナリーに会わせなかったのは賢明な判断だったよ、C.C.」
この状態のルルーシュを見て、彼女が動揺しないはずがない。僕でさえもこんなに手が震えているのだから。兄を亡くし自分を責めながらも世界を少しでもよくするために動き続けている少女をまた傷つけたら僕はC.C.を許せない。

でももしかしたらナナリーは喜ぶのかもしれない。ルルーシュがこの世にまだいることに感謝するかもしれない。例え中身がなくともこの目の前の人はルルーシュなのだから。

 

 

少し伸びた黒髪をすくように撫でる。後ろで結びきれなくて顔にかかった部分を耳にかけてやるとむずむずと少し身じろいだ。

ここまで慣らすのには骨が折れた。最初は僕の隣で眠りにつくなんて考えられない状態だった。やってきたその日のうちは近づくだけで泣くは喚くは逃げ出すはでこちらが泣きそうになったが、少しずつ物理的な距離を縮めて僕が敵ではないことを認識してもらった。もしかしたら今までC.C.とばかりいたから、男が怖かったのかもしれない。

一番大変だったのはお風呂に入れる時だった。まず水を怖がる。頭からお湯をかけようものなら不倶戴天の敵とでもいう具合に睨まれひっかかれた。でも腕力で適わないと分かると潔いもので抵抗を諦め全てされるがままになった。元から痩せていた体はますます薄くなっていた。一番見るのが怖かった腹の傷は跡形もなく回復していた。……これがコードを持っている証拠なのだろうか。

今日は疲れたのかよく寝ている。寝顔を見ているとこんなにあどけなかったかと思うほど彼は幼かった。そんなルルーシュにも友達がいる。どこかで見たことがあるような気がする黄色いくたくたの大きなぬいぐるみだ。見つけると部屋の隅で抱きしめて丸まっている。安心するのだろう。

しかし、その役が今は僕になっている。ベッドに入るとすぐさまきつく抱きつかれ身動きすらできなくなった。今の彼は子供なのだ。強制的に早く大人になってしまったルルーシュは、甘えられる子供の日々を生き直しているのかもしれない。

そんなルルーシュの様子が変わった。薄く開いた口からは少し乱れた息が上がり、眉根が寄せられている。足が僕の腰骨あたりを跨ぐように絡みついてきて、時々そこがぐっと押し付けられる。少し上気したように赤くなってきたルルーシュの顔を見て理解した。

「……切なくなっちゃった?」
僕が声に出すとルルーシュは薄く目を開いた。泣きそうな顔をしている。静かに息を荒らげながらどうしようもない衝動に戸惑っているようだ。
「いいよ、してあげる。辛いね」

腰のゴムから中に手を入れるとそれはもう熱く硬くなって上を向いていた。
「カチカチだ。……こういう時今までどうしてたの?」
心は着いてこなくても体は青年なのだから、性衝動があるのは当たり前だろう。
「そっか。分かんないよね」
C.C.が処理してたのか――。そんなことを考えるなんて下衆な勘ぐりだって分かってるけど、僕は嫉妬した。僕に会う前は彼女が彼の面倒を全て見ていたのだから。ルルーシュのズボンを太ももまで下ろしながらぐるぐると考えてしまう。彼女はルルーシュを愛している。ではルルーシュは? 心が帰って来たら、ルルーシュは誰を一番に見るのだろう。

軽く手を添えているだけでは刺激が足りなかったようで、ルルーシュは僕に強くしがみつき手に擦り付けるように緩やかに腰を振っていた。
「もう、がっつかない」
――昔みたいに気持ちよくしてあげるから。
体を起こしてフェラしてあげようと思ったのに、当の本人は僕に抱きつく腕を緩めようとしない。

「舐められるの好きだっただろ」
向かい合って横たわりながら手だけ動かす。セックスとも言えない稚拙な交わり。どこも見ていないような空ろな瞳は涙に滲んで薄く開かれていた。すごく気持ちよさそうにとろとろになった表情はついぞ見たことがなかった。いつもルルーシュは自制心が強かったから僕にすら素の表情は中々見せてくれなかった。それがどうだろう。今は怖いってことも、気持ちいいってことも隠さずに感情のまま漏らす。

半開きになった口からは唾液が今にも垂れそうだ。じゅるとこぼれそうなよだれを吸うと唇がもごもごと僕の唇を食むように動いた。
「――!」
初めての自発的な行動に僕の胸はあったかくなった。求められるまま誘いに乗って唇を食べた。舌も差し込むと熱い口内に喜んで迎えられた。舌を尖らせて絡み合わせて、時折上顎をくすぐるやり方は僕のもので、つまりはルルーシュの記憶だ。
全てを忘れても体は覚えているのか。離れても追いかけて舌を伸ばすルルーシュ。親鳥に餌を求める雛というよりは。
「やらしいね」
興奮して自分の目が潤んだのが分かった。

 

段々ぽろぽろと喘ぎが漏れるようになって、体全体に力が入ってきた。足もつっぱねられて落ち着きがない。
「もう、イキそうかな」
ルルーシュの反応はまぶたを開くだけだけど、細められた目は気持ちよくなりたいと雄弁に語った。スパートをかけてしごくペースを上げる。くちゅくちゅと音がするようになると、溢れた涙を枕に擦り付けよがって見せた。

「……イッていいよ」
前はイく時は必ず申告させてたっけ。彼の感覚的には来るって感じらしくよくそう漏らしていた。その言い方に興奮したよなぁと思い出していたらしごく手に力が入ってしまって、ルルーシュは腰をビクつかせながら声を出さずに達した。

目をきつく瞑ったせいで滲んだ涙が筋になって流れた。余韻に浸りながら荒く息をつく様子は以前と変わりない。しどけなくて、いやらしい。息を荒くしながらびゅくびゅくと片手から漏れる程の量を出した。
「いっぱいだ。あぁ、ついちゃった」
受け止めきれなくて僕のパジャマにも少しついてしまった。
「これだけ拭かせて」
少し離れたティッシュで手と服についた分を拭き取ってベッドへ戻るとまた両腕に閉じ込められた。

「そんなに僕を求めてくれるの?」
ん? と聞き返すように首を傾げ一瞬目を開けたルルーシュは薄く微笑んだように見えた。

――スザク――
落ち着いた低い声が頭の中でリフレインする。
もう一度あの声で呼んで欲しいと思うのは贅沢なのだろうか。

安らかに眠りについた彼の髪を結んでいる紐を解く勇気が僕は持てない。シーツに広がるあの黒髪を見たら、僕は。