紅の天鵞絨13*

!スザルルR-18!
 
 

窓辺に用意されたテーブルセットに座っていると侍女代わりの監視役が紅茶を運んでくる。
俺の心境とは真反対に、窓から見える庭園には陽光が差していて小鳥が飛んで、絵に描いたようなお花畑だ。目を落とせば、琥珀色の水面に映った自分の顔は少し痩せたようだ。情けない。
『――枢木ゲンブを始末してもらいたい』
あの日からシュナイゼルの声が頭の中を巡って離れない。
――始末する……。要は言葉通り殺せということか。帝国随一の頭脳と呼ばれる宰相閣下が随分と野蛮なことだ。俺のような忘れ去られた皇子まで使ってでも消し去りたいほど保守派の枢木ゲンブはブリタニアの障害なのだろう。それとも元から数年がかりの計画でこの為に俺たちを日本へと送った……? まとまらない思考に嘆息すると、あの日の会話がまざまざと蘇ってきた。

「いや、出し抜けに申し訳ないね。びっくりさせてしまったかい? まあ驚くのも無理はない。それほどの要求を私は君にしているのだからね」
今目の前の男はなんと言った? あの男を、
「……始末……?」
「そう、有り体に言うならば」
シュナイゼルは持ち駒で俺のキングの頭を叩いて倒した。
「病死かな。それが一番自然じゃないかい」
まるで今日の昼食を決めるかのような気軽さが、発言の内容にひどくそぐわなかった。異母兄は振り返り、控えていた副官から書類を受け取ると捲り始めた。一体そこには何の記述があるというのか。
「……枢木ゲンブ氏は、高血圧の気があるね」
違うかいとでも言いたげに首を傾げ、不敵に笑うシュナイゼルは相変わらず底が知れない男だ。健康状態まで知られているのか。――確かにあの人は見ての通りの体形で健康体とは言いにくいのは確かだ。だがそれが、
「見たところすぐにどうこうという数値ではないが……それはあくまでも自然にしていたらの話だ」
含みを持たせた言い方に目の前の男を半ば睨みつける。シュナイゼルはパサと音を立てて書類をテーブルに置くと、両手を組みその上にあごを乗せた。
「なにを仰りたいのですか」
「ルルーシュ、我がブリタニアには便利な薬があるんだよ。無味無臭で不自然でない位に血圧を上げ、やがて脳出血を引き起こし死に至らしめることの出来るものがね。ある程度継続的に投与しなければならないが、もちろん体内に証拠となるような物質は残らないし検死結果もクリアだ。どうだい?」
「……それを枢木ゲンブに盛れ、ということですか」
どう考えても殺人だ。許されるはずがない。
「理解が速くて助かるねえ、カノン」
副官から手渡されたビニールの小さな袋には白い粉末がかなりの量入っている。それを見ながら考えた。

確かに俺はあいつを憎んでいる。もっとも、この世で一番憎んでいるのは全ての元凶であるブリタニア皇帝だが、それと匹敵するくらいあの男も憎んでいる。いや俺たち兄妹をこんな目に遭わせている全てを憎んでいるといっても過言ではない。それならば、復讐するくらいなんでもないのではないか? シュナイゼルの言葉を信じれば証拠は残らず俺が罪に問われることはないはずだ。いやしかし、もしシュナイゼルが嘘をついているとしたら? 第一ゲンブは曲がりなりにもスザクの父親だ。スザクも実父を好いていないことは確かだけれど、だからといって俺が手にかけていいということにはならない。それに、人殺しになってしまったら、ナナリーに顔向けができない……。
「やってくれるね、我が弟、ルルーシュよ」
だが、俺が優先すべき第一は、
「俺が枢木ゲンブを殺さなければ代わりにナナリーの命はない、と」
ナナリー以上に大切なものなんてない。シュナイゼルの命によりナナリーの元にロロが派遣されている限り彼女の身は毎時毎分危険に晒されているのだ。
「うん、そうなるね。だが君は聡いから分かってくれると信じているよ」
無情に倒された黒のキング。今の俺を象徴している。
シュナイゼルに使われるのは癪に障るが、致し方ない。
「……契約と捉えましょう。俺が任務を遂行したら必ずナナリーを返して下さい」
「ああ、それはもちろん。約束しよう」
全てはナナリーを守るため。そう言い訳をして逃げていたんだ。

 

 

「……ルルーシュ……おかえり」
空港のロビーで会うなりいきなり抱き締めてきたスザク。その力強さと感触とスザクの匂いに、安心する。
「スザク。帰ってきた、ぞ」
腕を回して抱き締め返した。いつもなら往来でこんなことしないのだが、空港という場所柄男同士のハグぐらい見咎められないだろう。
そう、俺は帰ってきた。ここを選んで帰ってきた。スザクに決して言えない使命を帯びて。

空港から部屋に帰るなり、どちらからともなく噛みつくように唇を合わせて、玄関の壁に追い詰められた。角度を変えて唇を貪っているとスザクが腰を擦りつけてくるものだからたまらなくなって、半ば走るようにベッドにもつれ込んだ。もうお互いに互いの匂いだけで昂っている。
唇を離せば銀の糸が伸びて切れて、スザクのいつにない真剣な顔で視界がいっぱいになる。ああ、この顔を見たいと何度思ったことか。自覚は無かったが自分がいかに寂しがっていたのかを思い知らされた。

 

そして気が付けば広げた足の間からスザクの顔を見上げている。揺さぶられる度に脚ががくがくと揺れる。
「あ、あっ……も、むり、だスザク」
もうイけないと首を振って訴えるがスザクはまだ腰を使ってくる。俺は既にドライでも普通にでも何回も達しているのに、いつものことではあるけどスザクはまだまだ行けるみたいだ。つい先ほど出された精液がずちゅずちゅ音を立てて、入り口から溢れてしまっている。もう何回も直腸の奥の奥に孕まされるように射精されて、セックスを始めてから何時間経ったか分からない。それなのに感じてしまう。底なしの沼みたいだ。きゅうきゅうと引き絞ったままの後ろでスザクが性懲りもなくまた隆起するのが分かった。
「ん、またぁ、おおき……」
そこをみっちり満たされるとえもいわれぬ幸福感が湧いてくる。もうイけないと身体は訴えているのに脳は裏切って、これでまた突いてもらえるのかと思うと喉が鳴った。
「まだまだ足りないよ」
俺も同じだとはとても恥ずかしくて言えない。
「スザ、あっ、今日は、どうした? ぁん! いつもより……」
熱中しているというか、なんというか。必死だ。
「だって、ずっと一緒にいられなかったんだよ」
声が真剣みを帯びて俺ははっとした。スザクが耳元で重ねて囁く。その息がひどく熱くて背筋がぞくぞくした。
「いきなりいなくなっちゃって……僕ほんとに、どうしようかと思った」
今までシーツを掴んでいた両手でぎゅっと、使えるだけの力を込めてふわふわの頭を掻き抱いた。わずかに震えている。寂しい思いをさせたな。
「スザク、すまない」
「ルルーシュがいなくなったって考えたら、もう何も手につかなくなった。本当に本当に怖かったんだ。やっと帰ってきて、もっと抱き合ってたいって思うのは僕だけ?」
ゆるく上目遣いで見つめてくるスザク。瞳が少し潤んでいる。心配させてしまったのだと思うと愛しさが心の底から湧いて出てくる感じがした。涙が溢れそうな瞳を指の背で軽く撫でて、頬に手を添える。
「お前だけじゃ、ない……」
「本当?」
「ああ、好きだスザク」
なにものにも代えがたい俺のスザク。スザクが隣にいたら何だって出来る。例えそれが、
「僕も……愛してるよルルーシュ」
お前の親父を殺すことでも。

 

目元にキスが降ってきた。ちゅっ、ちゅっと音を立てて施されるそれはくすぐったい。幸福感に陶然となって笑いがこみ上げてくると、スザクの唇が首筋にまで下りてきた。
「ああ……」
同意とも喘ぎともつかぬ声を上げれば、入ったままだったスザク自身がナカを割って最奥まで突き上げてきた。
「アあ!! んっ、ん、あん!」
前立腺を擦ってその上最奥まで入ってこられると目の前がちかちかするほどの快感が弾ける。
「いっ、いい! スザク!」
ぐちゃぐちゃと鳴るそこが気分を盛り上げて、まだまだ行けるような気がしてきた。スザクが擦るところが全部きもちいい。離れていた間飢えていたのは俺も同じようだ。
「はっ……ルルーシュ……!」
促されるまま体勢を変えて後背位で貫かれる。一旦抜いて、収縮したソコにぐぷ、と音を立てながら入ってくる。
「はう、うあ……」
ず、ず、と全てを侵略するようにスザクが入ってくる。入口は神経が集中していて抜いたり差したりの度に着実な快感を運んでくる。お互いに喘ぎを上げて汗を流して腰を振って、はたから見たらさぞ滑稽なことだろう。だけどこれが今一番俺たちが求めていることで、また俺たちを安心させてくれるものだった。腰を掴むスザクの両手が熱い。がむしゃらに俺のナカを出入りするスザクの顔を振り返って見れば、天井を仰いでいる首筋が目立ってすごく性的に見えて俺の何かを掻き立てた。まるで狼のようだ。
「んあっ! あ、またっまたいく!」
「いいよ、気持ちよくなって」
見上げれば打って変わったスザクの優しい視線に、快感が一気に脳天まで駆け上がった。
「ああーーっ! あン、あ!」
「っ……!」
「ふあ……イったぁ……」
また出さないでイってしまって、絶頂感が中々引き切らない。ずっとたゆたっていたいようなそんな気分になる。スザクも同時にイったようで繋がったまま倒れ込んできた。
「きもちいいね……」
「ん……も、いい加減、ぬけよ……」
「えー、色気ないなぁ」
などと笑いながら言いつつその通りにしてくれるスザクはなんだかんだで優しいと思う。思ったのだが、「じゃあ綺麗にしようね」などとのたまい、指を入れてさっきまで出しに出されたものを掻き出される。カギ状に曲げた指でぐぷぐぷ音を立てて出すスザクはやっぱり少し意地悪だとも思う。
「んあ、あ、だめ、だめ」
「ルルーシュったらここ触られちゃうともう何も言えないんだから。えっちだなあ」
「んー! うるさっ、あん、おまえがっそんなとこ、触るからぁ」
掻き出す動きと共に前立腺をぐりぐりされるともう何も考えられなくなる。頭の中はまた繋がることでいっぱいだ。
「うわー、ごめんね。こんなに出しちゃってた。いっぱいだ」
確かにシーツに落ちた白濁の量はすごいことになっていた。
「言うなっ……ばか!」
「ルルーシュが可愛いのがいけないんだよ。止まんなくなっちゃった」
ごめんね、とはにかむスザク。
「勃っちゃった……?」
「うるさっ」
「いいよ、ルルーシュが出来るならもっとしよ」
本当に嬉しそうにスザクが笑うから絆されてみるのもいいなと思ってしまう。いや、何より俺自身が欲しいんだ。
膝の裏に手を入れて開けられるだけ脚を開く。
「すざく! キス、してっ」
――全部忘れさせてくれ。

 

これはいつもの仕事だ。そう自分に言い聞かせて震える手をなだめる。もともとお茶汲み諸々ゲンブの身の回りの世話は俺の担当だったのが幸いした。シュナイゼルがそこまで見抜いていたかは知らないが。
緑茶ではなくコーヒーにしたところに自分の度胸のなさを感じる。安心しろ、シュナイゼルの言葉を信じれば無味無臭のはずだ。緑茶だろうがコーヒーだろうが水だろうがやってやる。
「先生、少し休憩なさってはいかがですか?」
執務机にカップを乗せたソーサーを置いた。
もう二度と戻れない。