騎士団のアジトのゼロの部屋で、C.C.は静かにゼロに問いかける。
「……何の話だ」
「あの白兜が”お友達”だったことはそんなにこたえたか」
ルルーシュは口をつぐんだまま応えない。C.C.は彼の顔も見ないまま言葉を続ける。
「白兜さえいなければ、とお前は何度も考えていただろう。……皮肉なものだな」
鼻で笑うようにしてそう言ったC.C.に、ルルーシュはガタッと音を立てて席を立つと、何かにとり憑かれたかのように朗々と話し始めた。
「ランスロットのパイロットがスザクだったという事は、紛れもない事実だ。あいつの身体能力なら、あの並外れた動きも納得できる。ランスロットに乗っていたこと、ユーフェミアに見出されたこと、……アッシュフォードに来たことすらも、最初から関係していたことだったんだ! 俺が気がつかなかっただけで!」
段々熱が入ってきたルルーシュの独白を遮るように、C.C.はその独特の温度の分からない声で冷静に問う。「私は以前お前に訊いたな。お前に撃たれる覚悟があっても、相手を撃つ覚悟があるのかと」
「……分かっている! 例え相手が誰であろうと撃つ。相手がスザクだろうと、たとえそれがユーフェミアの騎士であろうと、義理の妹でも……それは変わらない!」
痺れを切らしたようにルルーシュはトレーラーを後にした。一人残されたC.C.は、ソファに寝転んだまま空(くう)を見上げ、呟く。
「……お前は結局はやつの生を望んでしまったじゃないか。お前は情を捨てきれない。ナナリーはいい、あの子はお前を分かっている。血を分けた兄妹だ。だがしかし、枢木スザクはいくらお前が執着したとて、それを返す謂れのない他者なんだ。それを、自覚しなくては……」
――とりかえしがつかなくなる。
スザクの騎士就任パーティーは、大いに盛り上がった。同じ学園の生徒から皇女殿下の騎士様が出たとなれば、お祭り体質のアッシュフォード。騒ぎになるのは当たり前だった。
ルルーシュが伝えたかったことは、もうスザクへ届かなくなっていた。もしもの時に、自分の代わりにナナリーを守ってくれる誰かが欲しかった。そして、それに枢木スザク以上の適任者は見つからなかった。そしてこれから先も、見つからないことは分かっていた。
ルルーシュは貼り付けた笑顔で、一通りの祝辞を述べた。それにスザクは気づいただろうか。出来れば気づいてくれるなと、ルルーシュは思う。
会が成功に終わって数日後、ルルーシュはスザクに泊まっていくように声をかけた。
騎士就任直後で忙しいスザクも、その誘いに喜んで答えた。しかし少し不思議なところを感じる。今までは「夕食を」と言うのが彼の声の掛け方だったのだ。そこにその後のセックスが想定されているにしろいないにしろ、直接的な「泊まれ」というルルーシュからの言葉ははじめてだった。
そして何よりルルーシュの声が、今まで聞いたこともないほど弱弱しかったのがスザクは気になった。
いつものように夜半過ぎ、スザクが部屋に入るなりルルーシュは一言も発さずに、まだドアのそばに立つスザクのズボンに手をかけ、そこからペニスを取り出した。
「皇女殿下にこんなことはさせないでくれよ」
「ちょっと、ルルーシュ!」
「うるさい」
スザクがやめさせようと頭をつかんでも、ルルーシュはやめない。まだ反応していないそれを愛しそうに両手でさすり、先から丁寧に舐めはじめる。
「どうしたんだい……いやに積極的じゃないか」
スザクの少し上がった吐息を聞いて、ルルーシュは安心して口撫に没頭していく。
今は他に何も考えたくなかった。
先の割れ目を舌先を尖らせてほじるように舐めたかと思うと、竿全体を喉の奥まで迎え入れて吸い付きながら締め付ける。
そのルルーシュのあまりの熱中ぶりに、スザクはなにか焦りのようなものを感じたが、興奮していく自分がよく分かった。本当に最初より上手くなった。
「……ルルーシュ、いいよ。すごくよかった。次は僕の番」
床に座りこんでいたルルーシュを脇の下に手をいれて抱き上げて、ベッドへ運ぶ。濡れている口許も拭ってやった。ルルーシュは何も言わずされるがままだ。これも珍しいことだった。いつもだったら抱き上げようものなら「女扱いするな!」とうるさいほど叫ぶのに。
ベッドに収まったルルーシュは息を荒げて、自分からシャツのボタンを外し始める。いつもならスザクが脱がすのを渋々といった体で受け入れているだけなのに、とスザクが不思議に思いつつも手伝ってシャツを腕から抜いてやると、腰を浮かせて、ズボンもパンツすら躊躇いもなく脱いだ。何も身に纏わず、必死の眼差しで全身で誘ってくる。露わになったルルーシュのそれは、もう先走りで光っていた。
「僕の舐めて、興奮したんだ。触ってもないのに……」
「うるさい! そういうことを言うな……」
もう我慢出来ないようなルルーシュにつられるように、スザクも服を脱ぎ、乱暴に床へと放った。
身体はもうすっかり慣れたのに、まだ追いつかない心とのアンバランスな反応が、スザクを煽る。優しく快感漬けにして乱れる様を堪能したいとも思うし、変わってしまった身体を嬲りながら指摘して、恥辱に目を潤ませたいとも思う。
これからどうされるのかと不安気な、しかし期待の色にも妖しく光る目に誘われて、スザクから噛み付くように唇を合わせた。
唇を唇で食んで舌を差し込み、上顎の敏感なところを舌先でくすぐれば、声をあげ良さそうに背筋を震わせる。口内すべてで触れ合った。ルルーシュはそれを受け入れつつ呼吸するので精一杯なのに対し、スザクは着々と交わる準備を始める。
既に屹立した胸の尖りを刺激すると、ルルーシュは高い声で喘いだ。片手で乳首をつまみ、もう片手で勃起を擦り上げると、ルルーシュはスザクの唇へと喘いだ。
「ん! んぅ、ん」
その反応にスザクが気を良くして、彼の唇を解放すると、ルルーシュは必死の体で乞う。
「スザク、もうっ大丈夫だから……はやく」
スザクがこうして夜半訪ねてくる時、ルルーシュはいつも準備をして待っていた。
来るかも分からぬ相手を思いながらの行為には、いつも虚しさが付きまとった。待てども待てども来ない日は、疼くそこを自ら慰めたこともあった。
「あぁっ! も、はやくっ」
早く挿れられて、スザクの思うがままに揺さぶられたかった。
泣き叫ぶようにして続きをねだるルルーシュに、スザクはすぐに応える。自分で二、三度擦り上げたペニスを、もうぐずぐずに溶けきったそこへ宛がって押し込む。
「ひぁ! あぁ、あっ、あっ」
「すごいっ、ルルーシュ……。ナカぐちゃぐちゃ……ちょっと慣らし過ぎじゃない? 今日のオナニー、気持ちよかった?」
「はぁっ、ちが、ちがうっ!」
既に解されきっているのをいいことに、スザクは遠慮なく怒張を打ち込んでいく。恥ずかしがるルルーシュを視姦のごとく見つめながら、ゆっくりそこを慣らしていくのが楽しかったのに、と思うと少し意地悪なことを言ってしまう。
対するルルーシュもちゃんと考えがあっての行動だった。待ち切れずに一人で始めてしまった淫乱のように言われるのは心外だった。――別に自慰をしていたのでないのに。スザクがクラブハウスを訪れるのは毎回遅いし、ルルーシュだって翌日の身体のこともある。ただでさえ、交わるようには造られていない身体での交合だ。スザクに任せるよりは、事前に準備を自分で済ませておいたほうが、効率的だという、ルルーシュにとっては合理的な判断だった。
それでも、どんなに乱暴に扱われても、どんなにひどい言葉で嬲られても気持ちよくなる身体を、ルルーシュは自分の身体であるはずなのに不思議に思っていた。
「あ! あぁ! だめだっ、スザク、はや、いっ」
「これ、ぐらい、平気だろ? ルルーシュだってビンビンにしてる、じゃないか」
「ひあっ、あん」
スザクは後ろからルルーシュを思いのまま突く。
「気持ちいいだろ? 今日は、すごくしたがりだったみたいだからっ」
「あん! あっ、あー……」
ピストンはどんどん激しくなって、ルルーシュは中のスザクが硬くなったのが分かった。スザクがこの身体で、この不完全な穴で楽しんでくれたのなら、とルルーシュは薄く笑みを浮かべた。
「ふぁ、あう、あっ、も、だめだ……っ」
ルルーシュはもう力の入らない腕に頭を置くようにして突っ伏しスザクに振り向くと、律動を甘受しながら切れ切れに訴える。
「スザクッ、スザク、いくっ、いかせて……気持ちよく、して!」
「……どうしたの、素直だねルルーシュ……。ほらココ、いいでしょ。イって、いいよ」
中で一番感じるしこりを思いっきり突かれると、腰が重くなって、自分のペニスが震えるのが分かった。
「あっ、そこっ、そこ! いっちゃう」
絶頂の予感にがくがく震える身体を精一杯ねじって、ルルーシュはスザクを見つめる。
自分を突き上げる彼は精悍な顔つきで男らしかった。
これなら、あの子が恋に落ちるのも無理はない。
――俺の自慢の□□……。
「そんな目で見て……エロいよ、ルルーシュ。僕ももういきそうっ!」
「あぁっ、スザク! 一緒に……出して、イカせてっ」
最後には二人で夢中で腰を振っていた。どんどん募る射精感と、スザクに突き上げられているという実感で、ルルーシュはこれまでにない程感じた。
「ああぁ! いく、いくっ、あぁ……!」
そしてこれが、最後だということも解っていた。
その後も欲求が満たされるまで行為は続いた。もっと、もっととねだり続けるルルーシュに、スザクは途中なにか嫌なものを感じたが、あまりに乱れたその様子に流されるまま行為を繰り返してしまった。
解放後の気怠さの中抱き合いながら、普段は滅多に”そういうこと”について具体的に話さないあルルーシュが珍しく饒舌に語る。
「……お前は、夢中になるとすこし、乱暴だな」
「そうかな? 痛かったかい、ごめん」
「いや、俺はいいけど……その……、女性には良くないと思う」
「……なに言ってるの? ルルーシュ……」
くりくりしたスザクの髪を丁寧に、それは丁寧に指で梳きながら、ルルーシュはスザクの瞳から逃げるように目を逸らした。
「それともユフィは……、スザクが俺と、こんなことをしていたと知ったら……」
「だからっ、何を言ってるんだよ! ユーフェミア様と僕たちになんの関係が……」
ルルーシュはきつくスザクを睨みつけた。まだわからないのか、とその瞳が詰問する。
「男同士でも……、避妊具はつけるべきだったんだろう? 俺はそういうことに疎かったから、そのまま……してしまって、お前がもし病気にでもかかっていたら……いや、俺は他人と関係したことはないから大丈夫だとは思うが」
「……ユーフェミア様とはそんな関係じゃないから! 君はっ、君は僕が君以外を抱くと思ってるのか!」
スザクの言葉も耳を通っていってしまうだけの様子のルルーシュを、スザクは抱き起こしてきつく腕の中に捕まえる。
「今は違っても……いずれはそうなるんだよ。スザク……」
「いいや、ならない。……ごめんね、ルルーシュ。ユーフェミア様のこと、何の相談もせずに決めて……」
「いいんだ。……やっぱり俺とユフィも兄妹なんだなと思ってしまったよ。はは、お前みたいなのに惹かれるんだ」
こうやって勝手に自己完結して既に答えを出してしまっているルルーシュには、何を言っても意味がないことはスザクにも分かっていた。
「でも僕の恋人は君だけだ。それは分かって欲しい。僕はユーフェミア様の騎士になったけど、このまま君といたい」
「恋人……?」
ルルーシュは、まるで聞いたことのない異国語のように、スザクが発した言葉を繰り返した。
「俺は、お前の恋人だったのか……」
「何言って……、そうだろ? 僕は君に、好きだって何度も伝えたじゃないか!」
「……それは、友達だからだろ?」
ルルーシュが発した言葉の衝撃に、スザクは固まった。
「確かに、こんなおかしな形になってしまったけれど……俺もスザクのことは……好き、だ。
でも日本には衆道というものがあるだろう? ……その、念友という友情の形態もあるそうじゃないか。俺はそういうことなんだと……思っていた……」
長い沈黙の後、やっとスザクが発した言葉は、意図せず涙ぐんでいた。
「じゃあ……僕たちは君の中では友達だったのか?」
「……ああ」
「俺もお前も普通に女性を愛することが出来るだろ? だから、こんなのはちょっとした間違いで、お前はユフィと幸せになるべきなんだ」
「君は、それを本気で言っているのかい」
スザクは一音一音丁寧に、ルルーシュの瞳をしっかり見つめて確認した。
「ああ。ユフィはいい娘だよ。お前なんかには勿体ない」
そう言うルルーシュの瞳にも、薄く涙の膜がはっているのが見えて、スザクは彼も虚勢を張っていることを理解した。けれど、どうしたらいいのかは分からなかった。
長くなってきちゃった。