後悔は贖罪たりうるだろうか1*

!スザルルR-18!
 
 
 
「もう行くのか」
放課の合図とほぼ同時に教室を出て行こうとする背中に、ルルーシュは声をかける。
「うん。でも約束の時間には間に合うようにするから」
「ああ。行ってこい。気をつけてな」
手を振りながら足早に遠ざかるスザクを、ルルーシュは廊下に立ちつくして、その姿が見えなくなるまで見送った。スザクは今日も軍に”戻って”いく。
いつかルルーシュが聞いた「軍に戻らなきゃ」というスザクの言葉は、彼の脳裏に未だこびりついて離れない。
人とは、無意識で発した言葉に心の底で思っていることがしっかりと表れるものだ。彼はそのことをよく分かっていた。
日本人のスザクにとっては”名誉”と蔑まれる場所。
そして自分たちにとっては敵と言えるあの男に仕える組織。
そんな所が、スザクの中では基盤になっているのかと思うと、ルルーシュは悔しさで歯噛みした。やはりと言うか、スザクは約束の時間には来なかった。夕食を一緒にするはずだったのだが、それは時間の流れによって自然となくなった。
遅れるという連絡をよこさないスザクが悪いわけではないのは、もちろんルルーシュも分かっている。名誉ブリタニア人に端末の所持は認められていないし、任務中に私用の連絡など出来るわけがないだろう。
内心ほぼそうなるだろうなと予測していたルルーシュだったが、それでもやりきれなさは滲み出てしまったようで、食卓を囲んでいたナナリーは兄に心配そうに声をかけた。
「スザクさん、お仕事ですもんね。寂しいけど……仕方ないですね。また来てくださいますよ」
「そうだね、ナナリー。技術部なんてどうせ暇なんだろうから、また誘うよ」
「はい! 折角お兄様が腕をふるって作ってくれたお料理なのに、スザクさん食べられなくてかわいそう」
気落ちしているルルーシュを励まそうと、ナナリーは口いっぱいに和食を頬張る。テーブルには到底二人では食べきれないほどの料理が並んでいる。そのほとんどが、ルルーシュが枢木神社で生活していた時に覚えた和食だった。
「無理して食べなくてもいいよ。きっとスザクは遅くなっても来るだろうから、全部食べさせてやる」
「ふふ、それはきっと喜びますね」
兄妹は目を合わせていたずらっぽく笑った。

 

結局スザクがクラブハウスにやってきたのは、もう日付も変わろうかという時間だった。
ノックの音が室内に響く。スタンドの灯りだけで机に向かい本を開いていたルルーシュは顔を上げた。
「ルルーシュ、いるよね? 入るよ」
そう告げるやいなや、スザクは返事も待たずに部屋へと入ってくる。
「……全く、何度言っても聞かないな。お前は」
「はは、またデリカシーの話? 別にいいだろ、僕と君の仲なんだし。それよりごめんね。こんな時間になっちゃって」
学生服を着たままのスザクは、軍務の疲れなど微塵も見せていない。今日はそれほど重大な事件は起こっていないはずだ。なんせルルーシュはずっとクラブハウスにいたのだから。

スザクは部屋の中程まで歩くと、椅子に座っていたルルーシュの手を引きベッドへ座らせ、自分も彼の横に収まった。
「……遅かったな」
スザクから目線を外してルルーシュは呟いた。抑えたつもりなのだろうが、少し非難の色が混ざってしまう。それがスザクにはルルーシュが拗ねているように思えて、その滅多に見れない表情をちゃんと見たくて頬に手を添える。
「うん。ちょっとしたミスがあって、すぐに対処しなきゃいけなかったんだ。……ごめんね、夕食間に合わなくて。ルルーシュが作ってくれたんだろ?」
心底済まなそうに眉尻を下げてスザクは詫びた。別にスザクが悪いわけではないのだ。ルルーシュが欲しいのはそんな言葉ではなかった。
しかし「軍を辞める」などという言葉がスザクの口から出ることが万に一つもないことは、ルルーシュとて分かっていた。いつか軍など捨てて自分の元に来てくれれば、共にブリタニアを倒してくれればと、叶わない想いはどんどん積もっていく。希望すら持てないことが辛かった。

ルルーシュが物思いに沈んでいる内にも、スザクの手はルルーシュの髪や頬を撫でて、次第にその手は太ももへと伸びる。
「っ、ちょっと待て! スザク軍務終わってからまだ何も食べてないんだろう? 夕食がまだいっぱい残って、今……あっためるから」
ルルーシュが自分を気遣う言葉を嬉しそうに聞きながら、しかしスザクはその手を止めない。
「いいよ、ありがとね。確かにお腹は空いてるけど……それよりも、ルルーシュ……。いい匂いがする。お風呂入って待っててくれたの?」
首すじに顔を埋められて、空気がもう変わったのが分かった。スザクの体重と匂いを感じながらルルーシュは考える。

――こんな風な関係になったのはいつ頃からだったか。
スザクが学園に転入してきたことで再会して、最初は彼から受ける印象の違いに驚いた。あのやんちゃが、あまりにも”いい子”になっていたのだから。
しかし生徒会での活動や、ナナリーと三人で会っている内に、まっすぐだったスザクの本質は変わっていないと分かって、ルルーシュは安心した。

スザクの頭を抱き寄せてルルーシュは自分から口づける。
確か、初めてしたのは誰もいなくなった生徒会室で、だった。その日は珍しく二人ともするべきことがなく、(そこには因果関係は確かに存在していた)、取り留めのない話をしながら、適当に事務仕事を片付けていた。
部屋には夕日が差し込んで、机に腰掛けるように立っていたスザクが、それまでの笑顔から真剣な顔になったかと思うと、ルルーシュの目にはスザクの顔しか見えなくなっていた。
次の瞬間には唇同士が触れていた。
突然のことにルルーシュは硬直したまま目を見開いてそれを受け入れていた。温かい息が当たる。スザクの瞼が閉じられているのを確認して、ルルーシュはこういったことに不慣れな自分が恥ずかしくなった。なにしろはじめてだったのだ。

しかし不思議と嫌な感じはせず、むしろこれは普通のことだとルルーシュは受け止めていた。
――スザクなら、仕方がない。スザクなら、大丈夫だ。という漠然とした思いがルルーシュの脳裡を占めていた。
優しく触れるだけの、でもたっぷり時間をかけたキスが解かれて、スザクははにかんだ笑顔を見せた。それだけで、もうルルーシュは何も言えなかった。
その日以来、時間があれば口づけを重ねて、そのより深いやり方も教えられ、ついには身体まで繋いだ。
ルルーシュの全ての初体験の相手はスザクだった。
「ルルーシュ、今日も……いいかな」
「ああ、大丈夫だ」
許可の言葉を聞くと、スザクはそっとその細い肩を横たわらせた。

隣で何かが動くのを感じてルルーシュは目を覚ました。
「俺……寝ていたか」
「少しね、イっちゃったと思ったらそのまま。……ルルーシュ、最近疲れてないか?」
目は醒めはしたが、ルルーシュの意識はまだ朦朧としていた。しかし腹に吐き出したはずの残滓がぬぐい取られていたことで、スザクが処理してくれたことに気づく。
それに先程まで使っていた後ろはまだ熱を持っていて、それほど時間が経っていないことも分かった。

「……いや、そんなことはない。大丈夫だ」
それよりも、ルルーシュには気になることがあった。
「お前……まだ、だろう?」
何も身につけていなかったスザクのそこへと目を向けると、それは控えめではあるが満たされなさを主張していた。さっきまで己を責め、よがらせた性器へ、気だるい身体を起こして手を伸ばす。
「ぅわっ、ルルーシュ! いいよ!」
「なにがだ。ここをこんなにしたまま……俺が寝ても、そのまま続けてよかったのに」
握り込んだ手を上下させると、それはますます大きさを取り戻していく。頃合になると、ルルーシュは扱き上げていた手を止め、ペニスを口に含んだ。先程まで自分のあらぬ所に入っていたというのに、なんのためらいもなく。
「っふ、無理、しないでよ」
「ん……違うぞスザク。俺がしたいからするんだ……。……ん、ん……」

口を使っての愛撫は、まずスザクが教えてくれた。
セックスとはそんなところまで使うのかと驚いたルルーシュにとっても、施される快感は強烈だった。訳もわからずに与えられる刺激に、劣情をそのままスザクの口内で開放した。
自分ばかりよくしてもらう後ろめたさからか、次第にルルーシュもスザクに施すようになっていた。最初は深く咥えればすぐえづいていたが、むしろ最近は好んでするようになった。
自分の動きでスザクを高めることが出来て、その様子をつぶさに見ることが出来る。
奉仕しているのに、どこかスザクを操って支配しているような感覚が、ルルーシュの気に入った。
ひとしきり、そそりたったものを上から下まで堪能すると、ルルーシュは顔を上げた。

「なぁ、……最後は、口かナカか、どちらがいい」
ルルーシュは唇についたスザクの滴を舐めながら、勝気な表情で選択を迫る。ルルーシュの中で、あくまでこういうことの決定権はスザクにあるのだ。
「折角ルルーシュがやる気みたいだから、もう一回こっちでしたいな」
まだ締まりきっていない後孔に指を差し込みながら、スザクはルルーシュを押し倒す。
両脚を掴んで大きく広げさせ、まとめて指を三本いれても、ルルーシュは良さそうに腰を震わせるだけだった。
その卑猥な様子にスザクはガチガチになったものをアヌスへと押し進める。
「あぁっ! あー……っ、あ、んんっ」
「……くっ、すごい、ルルーシュのココ、キツイのに、ずっぽり入ってく……。さっきもシたからかな、どんどん僕に馴染んでくるみたいだ」
「あ、ぅ、きもち、いいか……?」
どこか不安げな視線で見上げるルルーシュに、スザクは全身を撫でてやりながら吐息交じりの声で優しく答える。
「うん、気持ちいい……。挿れたらぎゅうぎゅう絡みついてきて、抜くと嫌がるみたいに締め付けるんだ」
その声の色気に、ルルーシュは自分のそこがきゅっと反応するのを感じて、ますます懊悩を深める。
「あぁ! っく、あぅ、あぁ」
ずんずんと、我慢を強いられていた分、容赦のないスザクの律動に、ルルーシュの瞳に涙が浮かぶ。
「……それに、ルルーシュが、つらいのに、僕を受け入れて、くれてることが嬉しいんだ」
こめかみに汗を浮かばせて、衝動を叩きつけながらスザクは想いを告げる。見つめあった瞳には確かに恋慕が存在していた。
ルルーシュは「そうか」と短く答えると、送られる快感に溺れていった。

 

つづきます。