!スザルルR-18!
とある週末、スザクと二人でナナリーの病院にやってきた。
本当は毎日でも行きたいくらいなのだが、病院とマンションが距離があるため、大学と仕事の合間を縫って大体月に二、三回しか通えないのだ。
「お兄様!」
ノックをして病室に入ると俺の足音が分かっていたのだろう。妹は声をかける前から俺のことを呼んでくれた。ナナリーはベッドに座って花が綻ぶように笑っている。
「ナナリー! 会いたかった」
「もう、お兄様ったらいつもそう仰ってますよ」
抱きしめるとナナリーは嬉しそうにころころと笑った。一人で寂しいだろうにいつも元気な姿を見せてくれる。そんな妹を見ると自分も頑張らなければと勇気づけられる。
「スザクさんもお元気そうで何よりです」
「ナナリーもね。本当によかった。治療がうまくいっていて」
そう、とても嬉しいことが起きた。主治医によると、もうすぐナナリー足の手術ができるようになるのだという。手術をしたからといって必ず歩けるようになるという訳ではないのだが、少しでも可能性があるのならそれに賭けてみようと二人で話し合ったのだ。費用がかなりかかるので、あの人を説得するのには少し骨を折ったが。
「今までよく頑張ったな……」
「はい。私が歩くところ、一番最初にお兄様が見てくださいね」
「ああ、もちろんだよ」
持ってきた花を花瓶に飾っていると、病室の扉が開いた。
「兄さん、スザクさん、いらっしゃい」
「ロロ」
入ってきたのは、ここの入院患者でナナリーの友達のロロだ。入院してすぐ仲良くなったようで、見舞いに来るうちに俺とスザクにも懐いてくれた。くるくるの薄茶色の髪も薄紫の瞳もどこか妹を思わせて、まるで実の弟のような気がしてくる。
「ケーキ買ってきたんだ。みんなで食べよう」
「まぁ嬉しい!」
スザクがナナリーの車椅子をカフェスペースへと押していく。その後ろ姿に心が温かくなる。
「……ナナリーはいいな」
「どうした? ロロ」
「足がよくなるみたいだし、……なにより家族がいて」
ロロは両親が数年前に亡くなり、難しい心臓の病もあって親戚に病院に入れられたらしい。滅多に見舞いにも来ないそうだ。寂しげな横顔が胸に刺さる。
「ロロ……俺はお前のこと、本当の弟のように思っているぞ」
「……ありがとう、兄さん……」
頭を撫でてやると、ロロは目を細めて微笑んだ。
「二人とも早くおいでよ。苺のショートケーキ食べちゃうよー」
スザクが手招いている。
「ああ、今行く」
「――ごめんね、兄さん」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでもない。僕何のケーキにしようかな。なにがあるの?」
「ミルフィーユとモンブランとレアチーズだ。プリンもあるぞ」
「じゃあ僕チーズケーキにしようっと」
早く早くと俺の手を引くロロは、打って変わって元気そうに見えた。
四人でテーブルにつく。家から淹れてきたアイスティーも注いで、お茶会の準備は完了だ。
「スザクさんもお兄様もお元気ですか? お勉強やお仕事で大変なんじゃ……」
ナナリーも毎回俺たちの様子を気にかけている。
「僕は体力あるから平気だけど、ルルーシュはちょっと心配かな。父さんが無理ばかりさせるから。この前だってね、一週間連続で残業して帰ってきて」
「何言ってるんだスザク、風邪ひとつひいてないだろ」
「だけどよく頭痛いって言ってるじゃないか」
「そんなのは体調不良の内に入らない!」
「お大事にしてくださいね。お兄様はなんでも背負い込むところがありますから」
「ほらナナリーが心配するじゃないか!」
「怒らないの、兄さん。でも僕も心配だな……」
「ナナリー! ロロ!」
二人とももひどく心配そうな顔でこちらを見上げてくるものだから、庇護欲が湧いてしまって思わず抱き締めていた。
「ほんとに君たちは仲がいいよ……」
呆れたように頭を掻きながら笑うスザクの顔も穏やかで、ささやかながら幸せを感じた。
「おはよールルーシュー、今夜約束してた飲みだけど後輩連れてってもいいか?」
朝一限目の講義はリヴァルと一緒だ。学部が同じで知り合って、傍から見たら特殊だろう俺たちにも普通の態度で接してくれるいい奴だ。
「いいけど、どんな奴なんだ?」
「俺と同じブリタニアからの留学生で、サークルの後輩なんだ。ブリタニア人の友達いるって話したら会いたいって言うからさ」
古くからの名門であるこの大学は日本国内では有名だが、留学生の数はそれほど多くない。
「分かった。スザクにも伝えておく」
「おう、よろしくー」
坊ちゃんたちに普通の大学生活を教えてやる! とかなんとか言って、リヴァルはよく俺たちを飲みにつれて行ってくれる。初めて入る居酒屋や、とりとめのない馬鹿話などは刺激が多くて面白い。ただ合コンにも頻繁に誘われるのには辟易するが。
(リヴァルは俺だけでなくスザクも合コンへと引っ張っていく。あいつが女受けがいいのを知っているからだが内心いい気はしない)
バイト上がりのスザクと待ち合わせて約束の店に行くと、リヴァルともう一人は既に待っていた。大柄で絵に描いたような金髪碧眼。三つ編みを後ろに三本垂らしているという妙なヘアスタイルの奴だ。好奇心の強そうな目が印象に残った。
「はっじめましてー! ジノ・ヴァインベルグっていいます! ルルーシュ先輩、スザク先輩、よろしくな」
「先輩なんていいよ、スザクで。よろしくジノ」
――何故か妙な既視感に襲われた。
「どこかで会ったことがあるか……?」
「いや、ないと思うけど。ナンパかい? ルルーシュは面白いな!」
ジノはにかっと笑って肩を叩いてくる。
「年上を馬鹿にするのは感心しない!」
「してないって」
「おーい、それより注文決めろー」
酒も入り盛り上がってきた頃、ジノがなぜ日本に来たかという話題になった。
「私は日本文化が好きなんだ! フジヤマ、ゲイシャ、アニメ」
指折り数えるジノにスザクが吹き出した。
「ジノ忍者も好きでしょ」
「ああ! もしかしてスザクはニンジャの末裔か!?」
「いやお前馬鹿にされてんの」
冷静に突っ込むリヴァルも意に介さないジノはなかなかマイペースだ。
「そういえばルルーシュ先輩はなんで日本に?」
「俺は日本生まれなんだ」
「へえー」
そういう設定にしている。ばれないように上手く嘘をつくには詳細な設定が必要だ。
俺たち兄妹は日本でブリタニア人の両親から生まれ、枢木家の近所で育ちそしてその両親が死んでしまったために慈善家の枢木議員に引き取られた。
――もうこれが設定なのか真実なのかも分からなくなってきそうだ。グラスの水滴が落ちるのを見つめる。
自分たちは本当にブリタニア皇族だったのだろうか。そんな馬鹿な夢想をするくらいの時が過ぎてしまった。あの国を放逐されてからもう十年以上になる。あの国にいた年月と同じくらい、この国で過ごしていることになるのか。
「ルルーシュ? 酔った?」
「いや、平気だ」
気が付けば隣にいるスザクが覗き込んでいた。俺は酒には強いほうなので心配する必要は全くないのだが。
「お前らはほんと仲いいよなー。女子の間でデキてるって噂されてんの知ってっかー?」
「え、そうなの? だって僕たち兄弟同然で育ってきたし」
「兄弟でもそんなに仲良くねえよ!」
「私も四人兄弟だが全く仲良くないぞー」
そんな噂が立っているなんて全く知らなかった。これからは大学内では気をつけなくてはなと思いつつ、まずい話題は逸らすに限る。
「それより、リヴァルとジノは何のサークルに入ってるんだ?」
「国際交流サークルだぞ! 構内をふらついてたらリヴァル先輩に誘われたんだ」
「……女目的だろう」
「ルルーシュはすごいな! なんで分かったんだ?」
「っておい! 俺は違うかんなー!」
マンションに帰ってきて早々、スザクは不機嫌だ。
「ジノとずいぶん親しげだったよね」
「なんだスザク、嫉妬か?」
挑むように笑って見せれば、あくまで平静を保っているように見せているスザクの瞳がぎらぎらと俺を射る。
「会ったことあるか、だなんて。ナンパにしても古すぎると思うけど」
「あれは本当にそう感じただけなんだ。まだ小さい頃ブリタニアで会ったような気がして。まぁ幼い頃の記憶なんてあてにならないから勘違いだとは思うが」
「……君が小さい頃に会ってるとなると、皇族か貴族じゃないか? ジノはそんな風には見えないけどなぁ」
「ああ……だが」
突然ぐいっと抱き寄せられた。
「他の男のこと考えないでよ」
地を這うような低い声を耳に注ぎ込まれたかと思うと、ちゅっちゅっという音とともに耳朶に口づけられた。穴に舌まで入れられて、ざわざわと腰に痺れがたまっていく。
「ん……んっ!」
「ルルーシュ、ここ弱いよね」
「やめ……言うな、ぁ」
はぁはぁと聞こえるスザクの息が熱い。自分の呼吸も上ずっているのが分かる。抑えきれない恥ずかしい声が漏れて、部屋に満ちる。
「あぁ、あっ」
「ベッドいこ」
手を引かれて寝室に向かう。その間刺激がやんでしまってもどかしいと思い、そう思っている自分のいやらしさに気づく。
優しくベッドに押し倒される。スザクはいつも俺を優しく扱う。それはそのための人形のようだった今までからは考えられないことで、どれだけスザクが大事に思ってくれているかが分かるから嬉しい。
「スザク……」
「ルルーシュ、もう顔がエロいよ。したい?」
ここまで来てそんなことを聞くのか。手つきは優しいがしてる時のスザクは存外意地悪だ。
「いいからっ、早く……」
「今日はどうしようかな……。そうだ」
スザクは俺のベルトに手をかけて、パンツを下着ごと下ろした。
もう思考はぐずぐずに溶けている。
「はやく、さわって」
「うん。でも今日は」
スザクの顔が足の間にあって、つまりそれは隠されるべき部分をスザクの目の前に顕わにしているということで、その視線に興奮が高まっていくのが分かる。
「っん、ふ……なに? あぁっ!」
ふとそこに濡れた温かい感触を感じた。スザクの尖らせた舌がアナルの襞を一つずつねぶっている。
「そんな、ふあっ、すざく」
てっきりあれを咥えられるのかと思っていたからびっくりした。と同時に何とも言えない快感が襲ってくる。
「ん、んう」
あのスザクに変態的行為をさせてしまっているという背徳感に背筋がぞくぞくする。
「も、スザク、やめてくれ……」
くちゃという音がして口がそこから離れた。
「舌でするのといつもみたいに指でするの、どっちが気持ちいい?」
「しっ舌なんて、汚いから」
「うそ。感じたでしょ、こここんなだもん」
すでに情けなく勃起したものを激しく擦り上げられる。先の割れ目を指でくりくりと刺激された。
「ひあぁっ! ああ……」
「ねえ、どっち?」
「……っ……そんなことより、お前は」
さっきからずっと気になっていたが、スザクのものもジーンズの中で張りつめている。
「じゃあ言うまで僕の触らせてあげない」
「そん、っくぁ!」
いきそうな位扱かれた後いきなり根本を堰き止められた。別に触りたいなんて言ってないだろう!
「やめ、離せっ、もうスザク!」
「ねえ、どっち?」
こういう時のスザクはねちっこい。……嫌なところで似ている親子だ。
そんなものどっちでもいいだろと思いながらも、どっちだろうと考えてみる。その間もいきたい気持ちは収まらなくて気が遠くなってくる。もうこの際、素直に。
「……し、舌ぁ……」
「分かった。ルルーシュはお尻舐められるのが好きなんだね」
スザクは満足そうに雄の顔で笑う。
「そっそんなこと言うな! もういいから、はやく」
「了解」
ひくついていたそこへ再びスザクの舌がぴとっとくっつけられる。
「ふあ!」
もうスザクは無駄口を叩くことなく愛撫に集中するらしい、舌とあれを扱く手の動きが速くなった。
「あ、あ、ア……」
恥ずかしさと刺激で頭がぼーっとしてくる。そこにスザクの舌が入っていると思えば意思に反して収縮する。それだけでいきそうだった。
「ああっ――!」
自分のそこの動きがまるでもっと深くへの刺激をねだっているようだと気づけば、知らず白濁を吐き出していた。
「はあっ、はっ」
「いっちゃったね……」
一瞬自失している間にスザクも衣服を脱ぎ捨てていた。筋肉質な身体に見合う立派なものがその存在を主張している。
「ほら、触らせてあげる」
「……っ誰も触りたいなんて言ってないだろ」
「目が言ってるんだよ」
そんなつもりはないが、自然ねだるような目つきになっていたのなら恥ずかしい。
もう十分すぎるほどに張りつめて、先走りまで流しているスザクのそれを手で支えながら口に迎える。あったかくて独特の味がして、それがスザクの味だと思うとさっきまで散々いじられた後ろが期待にきゅんとなった。
「はぁ……、な、もう……」
「ん、挿れたい?」
茎に音を立ててキスすればスザクがうめいた。
「じゃいくよ」
両膝の裏に手をかけられて股を広げさせられる。スザクが腰の動きだけで中に入ってきた。
「あっ、あー……、んあ!」
「すごっ、きつ」
指で慣らすより今日は深くを広げられていないため少し痛みがある。しかし入口が十分濡れていたのだろう。ピストンされていくうちにいつもの快感が襲ってくる。
「すざくぅ、おく、おく突いて」
以前は前立腺が一番感じたが、慣らされていくうちに最奥も気持ち良くなるようになってきてしまった。そこをいっぱいに広げられるのがいい。
今やすっかりスザクの抱き方がしっくりくるようになって、回数を重ねるたびにどんどん快楽が深くなっていく。このままいったらどうなってしまうのだろうと思う程だ。
「あ、あ、あん、アぁ!」
そんなことを考えている間も嬌声は上がり続けて、もう頂点を極めたくてなりふり構わず腰を振る。
「いく、いく、すざくっ、いっちゃ」
「うん……! 僕も……」
快楽に耐え切れずスザクの背に爪を立てれば、ずん、と一番深くまで挿入ってきた。張り出しの形を中で感じる。
「あはっ、――――っ! っ!」
気付けば不随意に身体が震え、触られてもいないそこから白濁が飛び出していた。
スザクも中で出したのだろう、じんわりとした温かみがそこに広がる。
「トコロテンしちゃうルルーシュ、すっごいえろい……」
「はぁ、はっ……うるさいぞ、スザク」
抱き締められて、掛かってくるスザクの体重を愛しく感じる。
「ねえ、また勃っちゃいそう」
耳元でそう囁かれると、こちらもまた炎が燃えてくる気がした。
「……受けて立とうじゃないか」
見上げて笑えば、スザクもまた俺の好きな俺だけが知っている男の顔で笑った。
あくる日腰の痛みを感じつつ図書館へと歩いていると、人波から飛び出ている顔と目が合った。
「ルルーシュ! 奇遇だなあ」
「ジノ。真面目に大学に来ているようじゃないか」
「はは、まあなー。今日はスザクは?」
「講義がないからバイトだ」
どれだけ遅くまで抱き合った次の日でも、スザクは早朝からバイトに行く。本当に体力馬鹿だ。
「なんで枢木家のお坊ちゃまがバイトなんかしてるんだ?」
ジノの口振りが気に障るが、それが普通の人間の感想なのだろう。確かにバイトなどせずとも全く生活に困りはしない。
けれどもスザクは頑なにバイトを辞めようとはしない。実際に自分で汗を流して働いてお金を得るのが楽しいのだという。
「何事も経験だろう、いいんじゃないのか」
「あっ別に批判してる訳じゃないぞ。……ちょっとルルーシュ、話せる?」
そう言うとジノは俺の手を取り人気のない校舎へと連れて行こうとする。
「っなんだジノ! 離してくれないか」
「いいからいいから」
振りほどくが力が強く、教室の前まで半ば引きずられてきてしまった。
ジノは教室のドアを薄く開け中に誰もいないのを確認している。連れてこられたのは階段状になった大講義室だった。
「どうぞ、座って」
ジノは折り畳み式の椅子を下ろし俺を座らせると、自分は脇の階段の一段下へと降りた。
相手の真意が読めず困惑する。こんなところに連れてきてどうするつもりだ……。
「なんでこんなところに? 要件は何だ」
苛立ちを込めてジノを見上げると、それまでにこやかだった彼の表情が一変し凛々しいものとなった。その落差に驚いている間に、ジノは信じられない行動をとる。
俺に敬礼し、膝を折ったのだ。
「お迎えに参りました殿下」
「あなたの世界を変えるために」