その目の先*

!騎士皇帝R-18! お庭で。
 
 
正直かったるかった。いくら衛兵と言えど、俺とて帝国軍人のはしくれ。この心構えではいけないとは思うのだが、毎日毎日侵入者の現れる気配すらないこの宮殿は、警備する甲斐というものが全くない。
なぜならここブリタニアの帝都ペンドラゴンには、あの悪逆皇帝に刃を向けようとなどと考える者は一人として見当たらないのだ。クーデターなど万に一つも起こらない。
俺の定時の見回りはもはや散歩と化していた。
きっと使われることのないだろう長銃を肩にかけ、いつもと同じルートを歩きながら、脳裏を占めるのはいつも同じことだった。――何故ここの奴らはこの状況を看過しているのだろうか。

 

第99代神聖ブリタニア帝国皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
かの悪名轟く少年皇帝がその位に即したのはもう数カ月前だ。
いきなり謁見の間に現れ即位宣言をした皇帝、ならびにその騎士は一体どんな手を使ったのか、今では皆が口をそろえて「オール・ハイル・ルルーシュ」だ。この言葉を口にする奴らの顔には、皆一様に感情が失われていて、中でもその何も映していない空虚な双眸が謁見の間いっぱいに並んでいる様が、俺は一番恐ろしかった。
この状況は異常だ。一部メディアでは、奴を悪逆皇帝と名付け批判的な報道をしているものもあるが、この薄気味悪い宮殿の真実は誰も知らない。ルルーシュの即位当初に流れていた、今ではもう誰も口に出さないある噂が、俺にとってはいよいよ真実味を帯びてきた。

――「彼は魔眼を持っている」その瞳を見たが最後、彼に逆らうことは出来なくなる。

きっと俺以外の軍人や使用人はもう既に、その魔眼に囚われてしまったのだ。この広い宮殿の中で、うすら寒さを感じているのは俺たった一人なのだと思うと、自分よりいくつも年下の、あの細身の少年が得体の知れない、この世で一番恐ろしいもののように感じられて仕方がなかった。

自分の背丈より高い生垣が左右に並んでいるこの道を抜けると、皇帝の私宮に一番近いエリアに入る。間違っても奴に出くわさないようにと願いながら、生垣の合間からプライベートガーデンに入ると、かすかに人の声が聞こえた。笑っているような声だ。

久しぶりの異常事態に俺の脚は思わずすくんだ。銃を構えつつ、こじんまりとした庭園を見回すと、色とりどりの花々の向こうに白く豪奢な八角形のガゼボが見えた。物音もそこから聞こえる。事態を確認するために意を決してそちらへ近づくと、ものすごく近距離で絡み合う黒髪と栗色の癖毛が見えた。
なんということだろう。どうやらそこにいるのは、今まで俺の頭を占めていた皇帝と、その第一の騎士、枢木スザクであるらしい。
しかしどうにも様子がおかしい。皇帝はガゼボ内のベンチで、その騎士に覆いかぶさられて、キス、している。それも深く。いつもの純白の衣裳の上半身は白日のもとに暴かれていて、青白い肌がいやに輝いて見えた。騎士の手はどうやら皇帝の乳首を責めているらしい。

「あ!スザク、はやくっ、あぁ…早く…」
「はは、昨日もしたのにもう我慢できないの?」

二人の唇が離れると、皇帝は騎士に頬を擦り寄せて先を強請っている。ふいにその紫の瞳が遠くを見回すように動いた。そして俺は今の自分の状況に気がつく。俺は主君の前で突っ立って、あろうことかその情事を目の当たりにしているのだ。こんな所で行為に及ぶ方が非常識なのだが、ここではあの少年が法律だ。急ぎ恭順の意を示さねば。
左腕を胸の前で曲げて突き出し、跪こうとした。しかしそれよりも早く、あの紫の瞳と目があった。逸らさなければ、許しもなく主君の顔をまじまじと見るようなことなど許されない。しかしその顔に広がる不敵な笑みが、不思議に魅力的に感じられて、俺の筋肉は言うことを聞かなかった。白い腕がこちらに向かって伸びて、俺を呼ぶように動く。ゆっくりとした手招きがなぜか淫靡なもののようで鼓動が早まるのが分かった。足は操られて一歩ずつ近づいてしまう。歩を進めるたびに、生々しい光景と切れ切れの声がより鮮明になる。
俺の足音で、騎士の方もこちらを向いた。しかし特に反応はなく、むしろ見せつけるように音がするほどの深い口づけが始まった。ガゼボまであと数歩という所で、白い掌が見せられた。止まれ、ということだろうか。この距離では声も音も表情までしかと見える。結合を解いた二人の間の光る糸や、「して、して」と恥じらいもなく強請る声まで。一体何を考えているのだろうか!
こんな見せつけるような…ふき出してきた汗は緊張しているからだ。そうに違いない。息が荒くなっているのは決して興奮しているからなどでは…
初めて聞いた主君の声は、吐息交じりで熱に浮かされているようだった。

「そこで…見ていろ」

主君の命には、いかなるものであっても従わなければならない。俺に成す術などないのだ。

(ほんといいシュミだよ)

スザクは、ルルーシュの胸に舌を這わせながら友人の悪癖に辟易としていた。普段からいざ始まると正気を疑うほど乱れるのが常だったが、(いや、だんだんひどくなっているのかもしれない。)最初はこんな趣味などなかった。僕が触れるだけで許されないことをしているとためらい、困惑していた頃もあったはずなのに。

「っあ!あ!スザク…もう…」
「なに?」

ルルーシュはスザクの愛撫にぴくぴくと跳ねながら、横目で兵士の様子を観察している。その様は実に楽しそうで、スザクは何故かくやしくなった。

「も、がまんできな」
「僕の挿れてほしかったら自分で下脱いでごらん」
「早くっさわって、前も後ろもぉ!」

ルルーシュは淫蕩としか言いようのない表情で、騎士に自分を犯せと懇願していた。
自分で衣服を脱ぎすて、男に向かって足を開く。性器はすでに勃起していて、スザクの手で上下されて濡れた音を響かせた。

「ぅあ、あっ、ん、んー!」
「もうがちがち」

スザクが馬鹿にしたように笑うと、ルルーシュは焦れたように、スザクの右手を引き寄せ、指をしゃぶりはじめた。
ちゅぱちゅぱと音を立てながら舐め、充分に唾液を絡めると自らスザクの手を後ろへとあてがう。
指が二本まとめて入れられると、上擦った声が静謐な庭に響く。

スザクの指が出し入れされるたびに、腰を振りながらルルーシュは媚びるように啼いた。

「あぁ、あっ、…っ奥ほしぃ、すざく」

他人に見られながら恥ずべきことをする背徳の興奮にうち震えながら、ルルーシュはスザクの性器を露わにし、自分の好みの具合になるまでそれを擦りあげた。

「はぁっ、おっきぃな…あぁ!」
「っ、ルルーシュ…どうされたいの?」

その問いに、ルルーシュは薄く笑いながらベンチから降り、上半身を伏せて尻を突き出した。

「好きだよね…うしろから」

スザクは主の腰を両手で乱暴につかむと、待ちわびていた様子の後孔へと思い切り挿入した。

「っあー!んー!はあぁ、あ…あぁ、あぁ!」

女の声かと思った。眼前の主君には、やけにひょろひょろした青年だとは思っていたが、いざ目にするとこんなに艶めかしかったとは。

顔に似合わないほど立派な騎士のものを飲み込んで、歓喜の声をあげている少年を見て、俺は自分の息が上がるのを抑えられなかった。入れられ、突かれて気持ちよさそうに喘いでいる。
抜き差しの度に、短く喘ぎ腰を振る。 あそこにいる皇帝は、もはや騎士の女だった。

「あぁ!あーもっと、もっと…はっ、奥を」
「締め付けすごいよ、興奮してるんでしょ」
「だって…あぁ!あー、はあっ!」

ベンチに突っ伏して、揺さ振られるまま快感を享受していた皇帝が、俺の方に顔を向けた。まっすぐに濡れた瞳で俺を見つめている。閉じることも出来ないのだろうか開きっぱなしの口端から唾液が垂れて、見てはいけないものを見ているはずなのに、目線をそらすことは出来ないし、したくなかった。
この淫らな少年をいつまででも見ていたかった。

「あぁっ、そこ、そこ!いく、いくぅ」

ひときわ高い声を上げた陛下は、なんと俺の目を見たままイってしまったようだ。彼の性器から吐き出された液体が見えて、直接刺激を与えずとも達することが出来る男がいるのは驚きだった。

「っきつ…」
「ん…スザクのざーめん…でてる…」

こっちを見たままなんてことを言うのだろう。彼は俺を誘っているのだろうか。それとも見せつけているだけ?どちらにせよ願わくば彼に触れたいと思いはじめてしまっている。

「落ち着いた?」
「はぁ、はぁ…あぁ。な、連れてけ」
皇帝は両腕を騎士に向けて伸ばしながら、顎をこちらにむけてしゃくる。
「…イエス・ユアマジェスティ」
枢木はため息交じりに命に従うと、脱ぎ捨てていた自分の黒いマントで皇帝の裸体を覆った。陛下を両手で姫抱きにして、俺の元へと大股に近づいてくる。何故こちらに?
流石にこんなに近くで顔を上げたままでいるのは恐れ多い。頭を垂らし、恭順の意を示す。なにを告げられるのだろう。もしや内心の欲望を感づかれたのではないか、いや、この透き通る肌に触れられるのなら、俺はどうなったって…

「面を上げよ」

皇帝の真っ白な手が俺の頬から顎を辿って、目線を奪われる。真紅の瞳。あぁ、囚われるとはこういうことだったのか。この瞳に魅入られてしまってはもう何も考えることなどできない。この方こそが、俺が仕えるべき最上の主君なのだ。気がつけば俺は陛下の御手に口づけていた。

「ちょっと、ルルーシュ」
「ははっ分かってるよスザク」

忠誠の証はあっけなく手で払われてしまった。突然口づけたりして無礼だっただろうか。
陛下の唇が俺に向かって何事かつぶやくのが見える。見えるのだが、何故か陛下のお声が聞こえない。それどころか、頭がくらくらしてもう立っていられない。倒れてしまいそうだ。瞳を閉じる前に最後に見えたのは、血の色に爛々と輝く双眸だった。

「僕はまんまと君の計画に乗せられたわけだ」

スザクは崩れ落ちた衛兵などには目もくれず、ガゼボまでルルーシュを運ぶ。ベンチに座らせると、元通りに服を着せ、見た目だけは高潔な王を創り出した。

「何の話だ?」
「あの人。巻き込まれて可哀想だ」
「ふふ…見られるとよくないか?」
「その顔。君がそういう楽しそうな顔をしている時はろくなことを考えていない」

先を促すようにルルーシュは目を細める。

「宮殿中の人間にギアスをかけたように見せかけて、君は数人をギアスをかけずに放置した。目的は?」
「まさか認めろ、と命じたら何をしても無視されるとは思わなかったんだ。だからちょっと遊ぼうと思って。新鮮な反応だったじゃないか。最初は信じられないものを見ているような目だったのに、だんだん俺に欲情していくさまが、興奮する」
「…さすが悪逆皇帝だよ。あとどれくらいいるの、君のオモチャ」
「いや、もういない」
「そう」

スザクが最後のボタンを付けたのを確認すると、ルルーシュは彼の癖毛に指を通して頭を引き寄せ、囁いた。

「俺にはお前だけだよ、スザク」

ちゅっと音を立てて目許に口づけられて、この身体は僕しか知らずに朽ちていくのだと、スザクは今更ながらに理解した。

――全く君の考えることはろくなことがない。

 
 
ゼロレク目前。